『小説仕事人池波正太郎』

作成者
重金敦之著
出版者
朝日新聞出版
刊年
2009.12

  「鬼平犯科張」・「剣客商売」・「仕掛人・藤枝梅安」・「真田太平記」などの代表作をはじめ、多数の時代小説・歴史小説を書いた池波正太郎。 今年没後20年目を迎えますが、今なお作品は読み継がれ、多くの読者を魅了し続けています。まさに、昭和を代表する時代小説・歴史小説作家の一人といえるでしょう。
  池波は大正12年1月、江戸情緒の残る浅草に生まれ、幼少期から青年期にかけてさまざまな人生経験と、株仲買の仕事から公務員まで多彩な職業を経験しました。 その経験の蓄積は、作品に色濃く反映されているといくつかの例を示しながら紹介されています。
  本書の著者は昭和39年の暮れから、池波とは作家と編集者という関係で交流が始まり、長年にわたって、池波を見てきた人でもありました。 人間池波正太郎とはどんな人物であったのだろうか。作品解説とともに、長い交流の中かからその素顔と人物に迫っています。
  本書のおすすめというより、小説家池波という本道からは外れますが、巻末の第4章「人生を考える「食」の情景」は、食にたいして、 ことさらこだわり、大切にしてきた池波の姿がよく捉えられていて、興味深く読むことができます。
  『食卓の情景』という作品を引いて、著者は池波を、「「いわゆる食通」ではなく、「食べる楽しみを知った食通」だった池波正太郎の姿が浮かんでくる。 いいかえれば、「おいしいものをたくさん食べる」のではなく、「食べ物をおいしく食べる」術を知っていたといっていいだろうと」と書いています。 まさに、要を得た言葉と思います。
  著者には他に『池波正太郎劇場』(新潮社新書)という作品もあります。この本も当館で所蔵していますので、あわせてご利用ください。