『炎の中の図書館 : 110万冊を焼いた大火』

作成者
スーザン・オーリアン著 / 羽田詩津子訳
出版者
早川書房
刊年
2019.11

 1986年に起こった事件と言われると何を思い浮かべるだろうか。スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事件、旧ソ連チェルノブイリ原発事故、ハレー彗星大接近など多くの出来事が起こっていたこの年、ロサンゼルス中央図書館で40万冊が焼け、70万冊が損傷し、司書たちの心に大きな傷を負わせた火災が発生した。
 本書は、著者が行った当時の関係者へのインタビュー中心に火災について詳細に検証をして、ドキュメンタリーのように描いている。火災当日の様子は、本書のほんの一部にしか書かれていないが、その当時の人々がどのように行動し、彼らの働きによりどうやってロサンゼルス中央図書館が復興したのか、彼らの熱量が伝わってくる。また、1800年代からのロサンゼルス市とアメリカの図書館の歴史、そして図書館の発展に寄与してきた個性豊かな人びとについても語られている。その発展には常に課題が立ちはだかったが、それを解決しようとする人々の熱意が乗り越えてきた。そして、これらの歴史から将来の図書館の姿についても考察されている。そこで重要なキーワードになっているのは、「公共性」だ。著者は「図書館は、すべての人々に開かれていない限り、わたしたちが望むような施設にはなりえないのだ」と述べている。
 本書には、多くの言葉が出てくるが、「本を焼く土地では、やがて人を焼くようになる」という言葉は、読み終わったあと、特に重く残っている。