『トヨタと日産に見る場に生きる力 労働現場の比較分析』

作成者

伊原亮司著

出版者

桜井書店

刊年

2016.5

 本書は、トヨタと日産の生産現場での実態を労働社会学的に分析したものです。参与観察、つまり著者自身が応募して両社の工場で期間工、業務請負工として勤務も行っています。というと、すでに古典ともいうべき1973年初版刊行の鎌田慧『自動車絶望工場』を思い浮かべる人も多いでしょうが、告発色の強かった鎌田氏の著書と異なり、本書は経緯、事実、問題点などを淡々と記しています。そのため、例えば「トヨタはなぜ強いのか」「ゴーン改革を必要とした日産の凋落の原因は」といったビジネス書的な読み方もできるようになっています。
 参与観察の叙述も、両社の体質の違いとして興味深いものがありますが、トヨタの養成工の位置づけと現状についての報告が特に面白かったです。養成工とは、若年(主に戦前なら高等小学校卒、戦後なら中卒)で採用され、数年間企業内で中等教育に準じる教育を受けてから現場に配される工員のことで、昭和期高度経済成長期以前の大規模工場で比較的よく見られた制度です。
 トヨタでは、能力による結果か、単に学歴によるものかは微妙なものの、昇進などの処遇面で目に見える形で養成工は優遇されているといい、現在でも中卒段階での採用を行っているといいます。そこには、トヨタで終戦後激しい争議が起こった際には、養成工が組合切り崩しの尖兵となったことをはじめ、リーダーとして生産現場を支え続けるなど、トヨタの発展は養成工が支えてきたといったコンセンサスが社内にあることを指摘しています。新自由主義的な考えから、高等教育機関にまで職業訓練の導入を求めるような行き方とは正反対といえるでしょう。
 第4部「働く場の力学の理論的整理」では、第3部までのトヨタと日産による事例分析を踏まえたうえで、産業革命から現代に至るまでの労使関係について俯瞰しています。そして、現代を席巻する市場原理に基づく社会観も人間が考えたものに過ぎず、自然法則のように普遍的なルールではない、各人がいかなる社会にしたいのかを構想しつつ、それぞれの「場」で働く権利と生存権を守って行くべきと本書を結んでいます。