『YOKAI NO SHIMA : 日本の祝祭-万物に宿る神々の仮装』

作成者
シャルル・フレジェ著
出版者
青幻舎
刊年
2016.6

あるものは海風に吹かれ、またあるものは時間が止まったような雪景色の中に佇(たたず)む異形の者たち。本書は、肖像写真を専門に活躍するフランス人写真家が、秋田県から沖縄県にいたる58か所の民俗芸能や祭礼行事などを取材し、そこに出てくるキャラクターたちを撮影した写真集です。
みな実際には屋内や集落の広場など人の気配がする場所で登場するはずですが、この写真集では多くの場合シチュエーションが自然の中なので、これらのキャラクターたちが本当にそこに存在し、一人で迷いこめば思わず出くわしそうな感覚を覚えます。被写体が中央にドンと配置され、また複数では同じ角度で並ぶその構図がさらに効果を高め、いきなり眼前に現れたかのようです。
さらに、もともと仮面など被り物が多いうえに、そうでないものも後ろ向きにポージングさせているため、コスチュームではなくこういう生き物がいるという錯覚に陥り、見る側の緊張を高めます。とはいえ、これは私が日本で育ったがゆえに抱く感情かもしれません。
というのも、巻頭に掲載されたフランス在住翻訳家の寄稿文によれば、フランス人には霊や妖怪の概念がないそうです。それなのに、水木しげるやトトロは歓迎されているのだとか。恐怖や畏怖ではなく、新鮮で興味深いものと捉えられているからではないでしょうか。この写真集でも、それぞれ背景が明るく、被写体もフラッシュでハッキリ写されており、暗い怖さはあまり感じません。秋田のナマハゲなど、大きな出刃庖丁を持っているのに、むしろカワイイというか、ポップな印象さえ受けます。
収録されているのは東北・北陸・九州地方のものが多く、それぞれに地域的な特徴があります。また同じ九州でも、長崎と鹿児島と沖縄では結構違います。そうかと思えば、なんとなく北と南で類似点が見受けられ、巻末にキャラクター解説と参考文献も記載されているので、民俗学的な興味もそそられる一冊になっています。