『歴史に見る日本の図書館 : 知的精華の受容と伝承』

作成者
高山正也著
出版者
勁草書房
刊年
2016.3

本書は国立公文書館長等を歴任した図書館情報学者の著者が主には大正-昭和中期の図書館史を分析する中で未来像を考察したものです。歴史を現代に連続するものとして踏み込んだ評価を加えているのが特徴で、必ずしも包括的に図書館史を概説したものではありません。
例えば、大正末から関西を中心に活動した青年図書館員聯盟について、宣言や綱領を機関誌から引きつつ検討を加え、その現状分析は「今日の図書館にそのままあてはまる」と高い評価を与えています。これは逆に言えば、図書館はこのころからあまり進歩していないということになります。
実際戦後の公共図書館への評価は「無料貸本屋化」「金太郎飴的」と手厳しいものがありますが、著者はその原点を戦後改革の中で行われた占領軍による図書館改革に求めています。この改革には、二つの問題があったといいます。ひとつは伝統を無視した戦後改革の一環として行われたため、戦前の図書館の試みを継承しようとする姿勢が薄かったこと。
もうひとつは、民主主義を支えるシビックス(健全な公民)概念の定着を目指したもののそれに失敗したことといいます。その結果、日本の公共図書館は、戦前の伝統を継承した社会教育機関とも、専門職によって運営されるアメリカの図書館とも異なる、非常に中途半端なものとなってしまい、その延長線上に貸出数至上主義と評される1963年の「中小レポート」(特定の政治運動理念の共鳴者が支持するに過ぎない運動指針、とまで著者は酷評します)が出され、それが現代の図書館に大きな影響を与えているという歴史認識です。
「中小レポート」の「罪」の部分ばかりではなく「功」の部分も見るべきという批判は当然あり得るでしょうが、やはり史料保存に携わる者としては、この報告書が古文書等地域歴史資料の保存機能を徹底的に軽視したことを看過するわけにいきません。1960年代前半といえば、史料保存運動で現地保存主義への転換が急激に進んだ時期で、この時期以降普及の進む地域の図書館が多くの場合史料の受け皿になりえなかったことはとても残念です。
著者の現在の図書館に対する問題意識がストレートに反映されているため、歴史叙述の実証性という点ではやや物足りない点も残りますが、公共図書館で史料保存に関わる自分にとって刺激に富む一冊でした。