『BEKIRAの淵から:証言昭和維新運動』

作成者
鈴木邦男編著
出版者
皓星社
刊年
2015.4

明治維新以後、「維新」という言葉は、いまでも「大規模な政治改革」という意味で使われ続けている。「昭和維新」もそのひとつで、本書はそれを志して挫折したものたちの証言を集めたものである。
本書は、昭和52年に島津書房から刊行されたものの復刻・増訂版であり、昭和52年といえば、著者が大きな衝撃を受け新右翼団体一水会を組織するきっかけとなった、三島事件の7年後である。ノーベル賞候補とも言われた作家三島由紀夫が、昭和期に「維新」を志して自衛隊に乱入したこの事件は、ふつう「昭和維新」には含まれない。三島が『奔馬』で扱ったような昭和初期の国家主義運動、有名なところでは5.15事件や2.26事件などに顕在化したような事件の背景にある民間の運動が「昭和維新」と呼ばれている。
著者は、当時まだ生存していた昭和維新運動関係者のもとを訪ね歩き、本書のもととなったインタビューを行っている。いわば後輩とも言うべき著者の訪問に対して関係者の対応は好意的で、運動のことやインタビューが行われた当時の状況を率直に語っているように見える。
もちろん、回顧というものは一定のバイアスがかかるのが普通である。これらの証言を歴史叙述に組み込んでいくためには、原著刊行以後明らかになった文献資料やそれをもとに記された膨大な研究と対比し、史料批判を行っていく必要がある。しかしバイアスもまた昭和後期の時代状況を示す史料としては、また有益である。
本書タイトルにある「BEKIRAの淵」とは、もとは屈原の漢詩から来ており、運動の中で歌われた「昭和維新の歌」の歌いだしである。いまでも「昭和維新の歌」でネット検索すれば、運動を背景とした事件を扱った映画画像を背景に、この歌を視聴することが可能である。著作権的には微妙だが本書を読むための導入として、こうしたものを目にしてみるのもいいかもしれない。