『ヒップな生活革命』

作成者
佐久間裕美子著
出版者
朝日出版社
刊年
2014.7

リーマンショック後、アメリカの人々が高い食意識を持ち始め、産直野菜が入手しやすくなり、コーヒーの美味しい非チェーン系カフェ も増えました。
また個人経営の書店やギャラリーなども増え、クラフトブームがおこり、ZINE(自費出版の少部数発行物)の文化が盛り上がりを見せています。
この新しい文化の潮流が、ポートランドやブルックリンなどを中心に同時多発的に起こり、世界的な金融危機の中で各地に伝播していきました。
ポートランドに拠点を置くエースホテルをご存じでしょうか。ヴィンテージ家具や現代アートによる個性的な部屋、安い料金、多数行われるイベントなどによって人気を集めているホテルです。「クリエイティブな人が集まってケミストリーを起こす場所」を目指した創業者A・カルダーウッドは、地域に根付いたコラボレーションを次々に企画し、エリアを活性化させました。
こういったムーブメントを起こす人や、それに共感し集まる人を、現地では「ヒップスター」と呼んでいます。「ヒップ」とは、クールを指すスラング「ヘップ」が変形した言葉で、今は“通”に近い意味で使われています。彼らは、主流と仕事を共存しながら価値観は与せず、テクノロジーの恩恵は受けるが手作り品を評価するといった層です。自転車を好み、パソコンはMac、電話はiPhoneで、アウトドアやガーデニングを楽しみ、個人ブランドの服を着るという特徴があります。また、樵のようなヒゲの人も多く、本書の表紙には、ケメックスのドリップポットにヒゲ顔のイラストが描かれています。近年、顔を覆うヒゲにチェックのシャツというスタイルの白人系アメリカ人が増えており、「ランバーセクシャル」と呼ばれて人気だそうです。
ヒゲ顔が日本人に流行するかどうかはわかりませんが、確かに日本でも、リノベーションされた古いビル(あるいは町屋)に、ヴィンテージものや廃材リメイクの家具、本棚、観葉植物などを配した内装、産直食材を使った料理や手作りスイーツ、手淹れのコーヒーなどが楽しめ、ハンドクラフト雑貨も販売している、そんなレストランやカフェが増えてきたように思います。
ただ著者は、本書で紹介した事例は地域の特性から生まれたものなので、単にコピーするのではなく、登場した文脈を考えてほしいと述べています。
さて、昨年度に「まち・ひと・しごと創生法」が施行されましたが、本書を読むと、地方創生にはコンサルタントよりヒップスターが必要だと感じます。
地元のヒップスター同士、または移住者のヒップスターとバディを組んでケミストリーを起こすことが、とても有効なのではないでしょうか。
地方移住の新しいムーブメント「福岡移住計画」は、背景に、都市機能が充実しながら自然も近く、賃料が安いという地域性があります。ポートランドも、自然に囲まれ、食や環境に対する意識が高く、住みよい都市として若年層の流入が続いています。こうして見ると、奈良県も好条件に思えます。
エースホテルの「人と人のあいだに起きるダイナミックな交流の媒介」という考えは、そこに図書・情報を加えれば、そのまま当館の理念とつながります。
人と人・情報が出会い、さらに地域の特性を活かすことで、新しい何かが生まれる、それを再認識させてくれる一冊です。