『平城京の住宅事情 : 貴族はどこに住んだのか』

作成者
近江 俊秀[著]
出版者
吉川弘文館
刊年
2015.3

今年も現在、当館の3階ブリッジでは「奈良の二都展─藤原京と平城京の過去と現在─」と題した図書展示を開催中です。今回は、その展示資料の中から一冊ご紹介します。
奈良時代にどんな人物が、平城京のどこに居所を構えたのでしょうか。例えば、現在のイトーヨーカドー奈良店(左京三条二坊)は長屋王邸宅跡であることは有名ですし、当館の北側一帯(左京四条二坊)は藤原仲麻呂の田村第(たむらだい)だと推定されています。田村第は平城京最大の規模を有する宅地であり、推定8町を占めます。優に東京ドーム3つ分にもおよぶ広大な宅地は、まさに奈良時代中期最大の実力者の邸宅にふさわしい規模といえるでしょう。これら事例からもわかるように、平城宮に近いほど有力貴族や王族の大きな邸宅が建ち並び、宮から離れるほど位階の低い貴族が小さな住まいを構えていたという理解は、研究者でなくとも想像に難くありません。
しかし、本書は平城京の住宅事情を単純に宮との距離関係から説くこの定説に疑問を投げかけます。長屋王邸をはじめとする発掘成果の再検討、宅地の規模や構造、当時の政治情勢や相続問題にまで言及し、従来は見落とされていたある一つの仮説を導き出します。個々の検証がまるでパズルのピースかのように解き明かされてゆく平城京の住宅事情は、奈良時代史の一端の復元、そして律令国家の成立から成熟に至る過程を雄弁に物語っている可能性をも提示します。
著者は20年間の奈良県立橿原考古学研究所在職中に平城京跡の発掘調査にも携わった経歴を持ち、現在は文化庁文化財部に勤務されています。知識と経験に裏打ちされた明解な平城京の謎解きをお楽しみいただける1冊です。
なお、図書展示「奈良の二都展」は8月27日(木)までです。今回ご紹介した本をはじめとする所蔵資料から、古代日本の中心地だった藤原京と平城京の魅力をお伝えしています。ぜひご来館ください。