『高齢者が働くということ : 従業員の2人に1人が74歳以上の成長企業が教える可能性』

作成者
ケイトリン・リンチ著
出版者
ダイヤモンド社
刊年
2014.4

奈良労働局が昨秋公表した高年齢者の雇用状況によると、従業員数31人以上で65歳以上も働ける県内企業の割合は76.3%でした。同じく70歳以上では21.1%で、ともに近畿2府4県中トップとなっています。
同局では、新規雇用よりもベテランの働きを望む企業の思いが表れたのではないかとしていますが、奈良県の65歳以上人口の割合が近畿で2番目に高いことも、継続雇用を促す要因のひとつかもしれません。
この集計は毎年されますが、先年、生涯現役社会の実現に向けて「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正されたことで、今後ますます注目されるものと思われます。
そこで今回は、高年齢者を多く雇い、好調な業績を上げているアメリカのヴァイタニードル社について、文化人類学者が「参与観察」という手法を用いて考察を行った一冊をご紹介します。
中空針を製造する同社は、工場の従業員約40名の半数が74歳以上で、最高齢は本書執筆時点で99歳(その後101歳で引退)の女性です。
彼らは全員パートタイムで、勤務時間は原則的に自身で決めており、午前3時半から7時間働く人もいれば、午後3時から2時間だけの人もいます。
給料を日々の生活費に充てる人、丸ごと孫たちに渡す人など、働く理由も多種多様ですが、全員が「人とのつながりがほしい」と口にし、この会社には自分の居場所がある、ここで働いていると幸せな家族の一員だという感覚や自由を味わうことができると語ります。社長によれば、彼らはおしなべて労働意欲が高く、仕事に強い倫理観を持ち、頼りになるそうです。
そんな彼らにとって“成功している加齢”の鍵は、経済に貢献し、仲間と支え合う生産プロセスに参加する労働であり、お金を稼ぐことは重要です。この点で、ボランティア活動にやりがいを見出す人とは大きく異なります。
本書には、著者が同社に5年近く身を置き、従業員たちが受けている待遇やケア、会社への忠誠心が醸成される理由などを調査・分析した結果が、関係者へのインタビューとともに記されています。
低賃金で各種給付の法的義務が生じないパートタイム雇用ゆえ、搾取ではないのかという意見もあるようです。しかし著者は、従業員たちが納得して働いている以上搾取には当たらないし、彼らの経験や思いに耳を傾けることは、後半生の生きがいや意味を考える際の助けになると論じています。
当然ながら、同社の成功は、業務内容や国の社会保障政策などいくつもの要因を組み合わせた結果です。しかし本書は、高齢化が進む我が国の生産年齢層にもシニア層にも、エイジングや生きがい、労働の意味などについて、新たな見方と今後へのヒントを提供してくれます。