『パンダが来た道 : 人と歩んだ150年』

作成者
ヘンリー・ニコルズ著 池村千秋訳
出版者
白水社
刊年
2014.1

 今も昔も、パンダは絶大な人気を誇る動物園のアイドルです。ちょっとした日用品にパンダが描かれているだけでテンションが上がる人も多くいますね。その容姿は熊とさほど変わらないように思えますが、あの白と黒の絶妙な配色バランスによって、パンダは「大きな体でコロコロと動きまわる垂れ目の可愛い生きもの」と認知されているのではないでしょうか。
 四川省の山奥に生息していたパンダが、初めて外国人に発見されたのは1869年のこと。熱心な動植物の研究家でもあったフランス人宣教師アルマン・ダヴィドは、度々中国を訪れ、布教の傍ら調査活動に勤しみます。あるとき偶然立ち寄った民家で、パンダの毛皮が飾られているのを目にしたダヴィドは、この“白黒のクマ”を捕獲させ、それを標本にしてパリの博物館に送ることに成功します。
 この発見以降、パンダは動物園に仲間入りし、動く姿がテレビで紹介され、ますます人々の関心を集める存在となっていきます。それゆえ中国の政治指導者は、外交にパンダを利用することを思いつき、野生動物保護団体のWWFは、そのシンボルにパンダを選びました。ロゴマークにパンダが採用されたのは、野生動物保護の理念がわかりやすく伝わり、見栄えがよく、ミニサイズでの白黒印刷に耐えられるという、WWFの求める条件を全てクリアしたからだとか。1961年の組織発足とともに、ロゴは各種印刷物にプリントされ、様々なグッズが販売されようになりました。愛らしいパンダのマークが売り上げに大きく貢献していることは周知の事実です。
 本書では、ダヴィドに発見されて以降の約150年間、人がパンダをどのように扱ってきたのかがまとめられています。パンダにまつわる悲喜こもごもを紹介しつつ、私たちが親しみを感じているのは、実は“バーチャルな”パンダなのだと著者は指摘します。動物園で目にする姿も、野生にみられる姿と異なる点でロゴマークと同じとのこと。そして、バーチャルではない本物のパンダを守るためには、まずその違いに気付くことが大切で、本書をそのための一助としてほしいとも述べています。
 見た目の愛らしさ、癒しオーラ漂う姿だけではない、パンダの違った一面を知ることのできる本書。パンダファンならずとも興味深く読むことのできる一冊です。