『なぜ人間は泳ぐのか? : 水泳をめぐる歴史、現在、未来』

作成者
リン・シェール・著/高月園子・訳
出版者
太田出版
刊年
2013.4

  毎日30度を超える猛暑が続くと、水が恋しくなる。そんな時、青い海のような涼しげな色の表紙に誘われて手に取った1冊。
  著者は放送ジャーナリストであり、何より泳ぐことを愛してやまない女性。69歳でダーダネルス海峡(エーゲ海とマルマラ海を結ぶ海峡)の横断泳に挑戦し、その年齢グループの女性部門で、第1位でフィニッシュしている。 負けず嫌いの性格もあっただろうが、後にその栄光を、「わたしと海、わたしたちはパートナー。どちらか片方ではけっして成し遂げられないから。」と言い切っている。
  本書は、そんな著者がまさにダーダネルス海峡の海に飛び込もうとするところから始まる。横断泳のドキュメンタリーを主軸に話は進むが、途中、泳ぎながら回想するかのごとく、人はなぜ泳ぐのか、 なぜ水を愛するのかという素朴な疑問に答えるように、水泳をめぐる歴史や文化を紐解いていく。挿絵や写真が多用され、とても興味深く読むことができる。
  本文の各所に書かれているコラムでは、水泳のトリビアが書かれていて、ちょっとした息抜きになっている。例えば、史上初のドーバー海峡完泳者は1875年のマシュー・ウェブ。 女性初は1926年、アメリカのガートルード・エダール。今日までの完泳者数は約900人など。中でも最も驚いたのは、1988年フィリップ・ラッシュのトリプル横断(行って、戻って、また行く)である。なぜそんなことをしたのかはわからないとか…。
  読後は、著者とともにゴールした気分になり、「なぜ人は泳ぐのか」が少しわかった気がした。わたしたちの深層にある心理が、海へ水へと誘っているのだ。泳ぎが不得手な人でも、泳ぎに行きたくなる1冊である。