『なぜ猫は鏡を見ないか?-音楽と心の進化誌』

作成者
伊東乾著
出版者
NHK出版
刊年
2013.1

  猫好きの人にとっては、つい手が伸びそうなタイトルですが、本文はいきなりイソップ物語の「小川をわたる犬」の話から始まります。サブタイトル に音楽と心の進化誌とあるように、作曲家で指揮者でもあり、大学の作曲研究室准教授でもある著者の、音楽に対する想いが伝わってくる一冊です。自 身の作曲や演奏活動・また、ケージやバーンスタインなど多くの著名な音楽家との交流を通して、音楽の本質と向き合ってきたこれまでを振り返ります。   そして、音大出身ではなく、物理学科卒業・院修了の著者らしく、物理学や生物学、脳認知科学の知見をふまえ、人間の心と音との深い結びつきに迫 ります。
  作曲と指揮というフィルードで活躍する著者の、音楽に対する本質的な問いとは何か?という自問自答から始まった音楽活動の一端を、動機の問いと 導き出された答えから実際の音楽について具体的に示されています。Variation.1「なぜ、猫は鏡を見ないか?」で音の鏡と再帰的自己意識 についての考察から始まり、Variation.12「猫と犬の行方」まで、タイトルのネーミングとともにどれも興味深い内容となっています。   著者の生真面目な音楽への想いと、若い頃から国内外の音楽家との幅広い交流を生んだ行動力が、現在の著者の音楽を支えているのだろうと感じました。
  クラッシック音楽に興味がない人にも読み易く、純粋に音に対する知識を得られる興味深い一冊です。ぜひ一度お手に取ってみて下さい。