『21世紀の落語入門』

作成者
小谷野敦著
出版者
東京 幻冬舎
刊年
2012.5

  最近読んだ本の中から、お勧めの一冊を紹介します。あとがきで、「昔の名人の落語を聴かずに、現代の落語家のものばかり聴いている人がいたら、 それは不幸なことだというのが本書執筆の動機である。」という著者は、「業界のしがらみゼロの“客目線”で親しみ方を大胆指南。新感覚の入門書。」 と広告文にあるように、30数年に及ぶ落語遍歴に裏打ちされた、独特の感性と理論によって、読む人を落語の世界に導いていきます。   見出しも「落語界の世襲制は実悪」、「志ん生が実は分からない」、「近松の描く娼婦は美化しすぎ」など、本文とともに刺激的な内容が随所にあっ て、興味深く読むことができました。   入門書ということを心掛けていると表明しているとおり、『落語大百科』(川戸貞吉著 冬青社)ほか30数点の関連図書を紹介。人情噺や廓噺、東 京や関西の落語界の内部事情、東西の名人達の人物や芸談などとともに、歌舞伎・浄瑠璃・講談から民謡・小説・児童文学・クラシック音楽まで、比較 文学者であり評論家・作家でもある著者の専門分野の知識もまじえ、文学、芸術、思想と多岐にわたっています。この辺り、ただの入門書と一味異なる ところです。   新書版ですので、コンパクトに話は展開していき、あまり肩が凝らずに読めるのもうれしいところ。   秋の夜長、本書もそうですが興津要の『古典落語』や延広眞治の『江戸落語 誕生と発展』などの入門書や解説書にも目を向け、落語の世界に親しん でみませんか。 それでも、先ずは実演にふれてみたいという方はこちら。図書情報館では、奈良市出身の落語家・桂文鹿(かつら ぶんろく)さんプロデュースによる図書館寄席「花鹿乃(はなしかの)芸亭(うんてい)」を開催しています。古典から新作まで、その時代の姿を語りながら現代をも映し出す落語の世界 をどうぞお楽しみください。