『地震の日本史 : 大地は何を語るのか(中公新書1922)』

作成者
寒川旭著
出版者
中央公論新社 
刊年
2011.5

  本書は、2007年に刊行後長らく絶版であったが、3月の東日本大震災を機に再出版されもので、平安時代初期9世紀の地震活動と現代の地震に共通す る「地震連鎖」のことが増補版では加筆された。著者は「地震考古学」という分野を開拓した人で、発掘調査による地質研究と古文書などの記録から地震の 痕跡を読みとり、縄文時代から現代にいたる主な地震の地震災害を具体的に紹介している。
  例えば、天理市赤土山古墳は2001年の発掘調査で、古墳の墳丘にあるはずの埴輪が、低い位置で見つかった。しかし、その後の調査で地滑り痕が発見 されて、埴輪群が滑り落ちたということが判明したという。また、明日香の酒船石(さかふねいし)遺跡の丘陵斜面調査では、日本書紀に斉明天皇が築いた と記されている石垣の一部が崩れているのが発見されたが、石垣を覆う地層の年代から7世紀末ごろに地震が発生したことがわかった。発掘調査は地震と関 係なく行われているが、古墳などが多く存在する近畿地方は、地震の歴史も豊富に見ることができ興味深い。なお 『史跡赤土山古墳』(天理市教育委員会 2004.3刊)に、著者の論文が図版とともに掲載されており、「古墳が地震で変形した事例を検討することは、古墳本来の形状を探るうえでも重要であ り、地震の被害を軽減する研究の貴重な資料となる」と述べている。
  南海トラフ(断層)のプレートから発生する地震の規則性がわかり、阪神・淡路大震災以後、太平洋沿岸のプレートが影響する全域で地震の活動期に入っ ている。今世紀の中ごろには巨大地震が発生するのではないかとの予想もあるようだが、東日本大震災から4ヵ月たった今も地震による悲劇や原発の事故は 他人事とは思えず、私たちがこの国で暮らすためには地震との共存を考えていかなければならない。著者も「今後地震に対する備えの充実」を指摘されてお り、そのためには過去の地震から学ぶことも大切だと痛感させられる本である。