『陵墓と文化財の近代』

作成者
高木博志著
出版者
山川出版社
刊年
2010.1

  陵墓は、歴代の皇室関係の墓所で、大日本帝国憲法の発布にあわせて決定されたものである。ここに治定の誤ったものを含む古代古墳群から近世の天皇陵まで「万世一 系」の「陵墓」として括られるようになった。
  しかし、戦後の「日本史」が示す古代像と「凍結」された「陵墓体系」は齟齬をきたすことになった。たとえば、二十一世紀になって全長一九○メートルの前方後円墳 である今城塚古墳(現高槻市)から、六世紀の継体朝の大王の葬送儀礼を示す神殿・巫女・力士などの圧倒的な形象埴輪群が出土した。戦前の宮内省でも今城塚が継体天 皇の陵であるという議論はあったが、今城塚を真の継体天皇陵とし、陵墓参考地に指定すべきという答申は採用されることはなく、近年の発掘調査にいたった。
  最近では、五社神古墳(神功皇后陵、奈良市山陵町)や佐紀陵山古墳(日葉酢媛命陵)など陵墓公開が進んできたが、「閉じた皇室(用)財産」という性格は変わらな い。「陵墓」を御霊のやどる聖域とみなし、すべてに天皇家の祖先の墓としての性格を考慮すべきとの議論があるが、著者は違和感を覚えるという。とりわけ明確に皇室 の近い祖先とは性格が違い、すくなくとも六世紀初めの継体朝以前の「陵墓」となった巨大古墳群については、宮内庁が天皇家の祖先の墓としてのみ管理することなく、 文化財保護法のなかで「保護」「公開」「文化的活用」のありようを考えてはどうだろうかと提案する。
  文化財とは違う「陵墓」の調査研究をどのように進めていくのか、また、考古学的知見を踏まえて「陵墓」の治定は変更すべきかどうかを考えさせてくれる一書である。