『すぎされない過去 : 政治時評2000-2008』

作成者
井出孫六著 
出版者
みすず書房
刊年
2010.7

  今年も多くの出来事が起きては消え、もう師走である。
  「すぎされない過去」というこの本は、正当なものの核心が見えにくくなっている今、現代に立ちはだかる過去をも見据えて書かれた随筆で、 信濃毎日に掲載された新聞のコラムをまとめたものである。「政治時評2000-2008」と副題があるように2000年から2008年までの9年間にわたって 書き継がれた政治、社会の考察で、その時代のその時に起こった事を、私たちはどのように感じたのかといったような読み方もできそうである。
  文中に記された『答えが可能ではなくとも、考えてみなければならない問いというのがあるのだ。最も大切な問いとは往々にしてそういうもので ある』というトーマス・マンの第三子、ゴーロ・マンの回想録からの文章はこの本を読む者にかえってくる問いかけでもある。
   満蒙開拓団や中国残留孤児問題、従軍慰安婦の補償問題のこと、太平洋戦争、沖縄と基地の問題など、いまだに過去が「過ぎ去ろうとしない」事 実、また、いまだにメディアに採り上げられ社会問題となっている中東からアメリカのこと、アフガニスタン紛争(戦争)や、水俣病問題、原爆の ことなど過去、現在、そして未来をも包括して言及されている。
   同じ著者により「わすれがたい光景 : 文化時評2000-2008」も9月に刊行されており、こちらもぜひ読みたいと思っている。