『大名行列を解剖する : 江戸の人材派遣』

作成者
根岸茂夫著
出版者
吉川弘文館
刊年
2009.11

  江戸幕府は軍事政権であったが、武力を発動させることなく250年に及ぶ平和な時代を作りだした。武士たちは機会をとらえては権威を見せつけることにより 支配者であることを示した。その具体的なかたちが軍事パレードの大名行列であった。
  55万5000石の紀州徳川家の江戸城登城を例にとると、総勢280人だが、藩主に拝謁できるのは、35人に過ぎず、全体の18%程度である。 また32%は陪臣であり、全体の65%が小者・中間といった奉公人で武家より下の身分である。多ければ約四分の三にあたる200人以上、 少なくとも60%近い160人は人宿などから派遣された渡り奉公人か日用取だったのである。
  このように、大名行列の内情は、メンバーの大半が「渡り者」と呼ばれる派遣社員・アルバイトで、武士ではない人々によって支えられていた。 彼らの「がさつ」な行動は幕府を怒らせたり、困らせたりしたが、彼らは仲間同士で組織を作り上げ、現場の「元締」が出現して、主人の家来に祝儀金・割増金などをねだったり、 部屋の中で頼母子講をつくって掛け金を強引に徴収したりするなどさまざまな手段で稼ぎまくっていた。
  著者が大名行列に注目するのは近世武家社会の構造そのものが行列であり、多様な特徴が集約されており、その変質の中に近世社会のさまざまな動向が 特徴的に見られるからであるという。
  読んでいて面白いだけでなく、大名行列から江戸時代の武士とは、権威とは、あるいは社会の発展とは何かという難しい問いへの筋の通った 卓見が展開されている。