『良 (い) い加減に生きる : 歌いながら考える深層心理』

作成者
きたやまおさむ, 前田重治 著 
出版者
講談社
刊年
2019.5

  世間では「いい加減」という言葉はあまり良い意味で解釈されることはありませんが、作詞家で精神科医でもある著者は「良(い)い加減」という表現を用いてその意味を積極的にとらえることによって、自分自身の視野の広がりや思考の柔軟性を導き、創造的な生き方や考え方を実現させる可能性があるといっています。
 そのことを説明するために、自身の永い音楽活動や「あの素晴らしい愛をもう一度」や「戦争を知らない子供たち」など思いを込めて創作した数々の曲目の作詞に触れながら、「良い
加減」に生きることの良い意味や深い意義を見つけ出していった探索の足跡や思考の変遷を具体的にわかりやすく解説しています。
 第1幕歌の深層心理では、きたやまが作詞した20の歌について、共著者であり永い交友関係がある精神科医の前田重治が自身の雑文集の中から各曲目に関する短文を載せ、続け
てきたやまの文章を載せています。文中の小見出しには、対象喪失、喪の仕事、青春と反戦、祭りという退行、両棲類のごとく、めぐる時間、旅人の孤独といった項目がならび、きたや
ま自身の生き方や思索の内面を垣間見ることができます。
 本書の後半部分では第2幕日常的創造性の自己分析に関するきたやまの文章を紹介し、第3幕ではきたやまと前田重治の対談を載せています。
 一見とらえがたい「いい加減」という言葉。そして、さまざまな場面での「いい加減」な態度や、吹けば飛びそうな無意味、出会う心の中で揺れている矛盾する気持ちといったものは、ある面ではありふれた日常における創造性の源泉だと著者はいっています。いい加減に生きてゆけなくなっている昨今だからこそ、いまを生きるためのキーワードとして強調したいともいっています。
 二人の精神科医が音楽を題材にして「良い加減」の意義や意味について書いているので、単なる音楽評論や精神分析の解説本と一味違った面白さに触れることができるのではない
でしょうか。