『朝、目覚めると、戦争が始まっていました』

作成者
方丈社編集部 編
出版者
方丈社
刊年
2018.8

 街頭で微笑みながら「米英に宣戦布告」の新聞に見入る一組の男女の姿。この印象的な写真を表紙に使用している本書は、知識人・著名人の日記や回想録から太平洋戦争勃発時の状況や心情を抜粋し紹介するという他に類を見ない本です。
 昭和16(1941)年12月8日午前7時のラジオが国民に開戦を知らせました。以降同日午後9時までのラジオニュースを時系列で挿入しながら、思想家・作家・詩人・評論家など54名の開戦に対する反応と、太宰治の短編小説『十二月八日』、武田砂鉄氏による解説が収録されています。
 喜びや興奮を爆発させた人、解放感や期待感を覚えた人、死を思った人、自責の念に駆られた人・・・残された言葉から当時の人々の様々な心象や感情、空気感を読み取ることができます。開戦を歓迎し、期待と興奮で高揚する言葉が多く綴られていることに驚かされます。そして、作家の野口冨士男がアメリカと戦闘状態になればアメリカ映画は見られなくなるとの理由で妻子をともなって映画鑑賞に出かけたというエピソードに顕著なように、どこか対岸の火事とでもいうような切迫感や緊張感がそれほど感じられないのは、その後の激戦や夥しい犠牲者数、原爆投下や敗戦を知るよしもないからでしょうか。
  私たちは12月8日というある1日が、敗戦への道筋へと進む1日となったという歴史的結果を知っています。何気ない日常から非日常へと大転換した1日。本書を一読して、今という時がどういう道筋へと繋がるのか、今日という日、明日という日が本当に日常の1日なのか、未来の結果を知らない私の頭にそんな疑いがふとよぎるのでした。