『葛城の神話と考古学(日本書紀を歩く2)』

作成者
靏井忠義 著 
出版者
青垣出版
刊年
2018.4

 『日本書紀』の記事を通して古代史を紹介するシリーズ「日本書紀を歩く」の第2弾として、今回は奈良盆地中西部に位置する葛城地方を取りあげています。
 この地方は古代史においては特に重要な地域だったようです。平安時代に編纂された法令集『延喜式』には、社格の上で最も高いとされる名神大社が大和(奈良県)において約半数がこの地に集中していることからもその存在の大きさがうかがえます。
 本書では、日本書紀に書かれている葛城地方にまつわる記述をもとに、神話やエピソード、古社や古墳などを取りあげ、写真や地図を多用して30あまりの記事にまとめ、簡潔で分りやすい文章とともに興味深く紹介しています。
 『延喜式』名神大社の項では、鴨の神々と題して御所市内にある鴨(かも)都波(つば)神社(御所市御所町)、高鴨(たかがも)神社(御所市鴨神)、葛木(かつらぎ)御歳(みとし)神社(御所市東持田)の三社について、社伝や『延喜式』神名帳に由来を求め、『古語拾遺』の説話も紹介しています。
 京都の下鴨神社や上賀茂神社をはじめ全国に散らばった鴨族の故地として“鴨族の御所”の由緒を辿っています。
 神話やエピソードでは一言主神社についても触れています。御所市森脇にある葛城一言主神社は、地元では「一言さん」と呼ばれ、一言の願いであれば何ごともかなえられる神として信仰を集めていますが、『日本書紀』の雄略天皇4年条には、天皇(雄略)と一言主神の出会いのエピソードが載り、『今昔物語』での役行者とのやりとりも紹介されています。
 古墳・遺構・遺物の項では平野塚穴山古墳の謎と題して、香芝市平野、西名阪自動車道香芝インター付近にある飛鳥の高松塚古墳やキトラ古墳などとそっくりの凝灰岩製横口式石槨をもつ終末期古墳を取りあげています。漆を塗り重ねた夾紵(きょうちょ)棺(かん)と呼ばれる最高級の棺が納められ、百済系渡来人との結びつきも考えられるとともに、飛鳥に集中する終末期古墳がなぜこの地に存在するのかという謎について疑問を投げかけています。
 これらの記事からもわかるように、葛城の地は古代が地上にも地下にも満ちています。東南部の飛鳥や三輪・纏向・山辺の地域と比べ、まだまだ未着手の古代が豊富に眠っていてベールの奥深さを感じさせる、そんな古代ロマンを読者に伝えています。