『葉室麟洛中洛外をゆく。』

作成者
葉室麟, 洛中洛外編集部著
出版者
KKベストセラーズ
刊年
2018.6

 本書は、2017年12月に急逝した葉室麟氏が、3年間暮らした京都を舞台とした3冊の小説に縁のある洛中洛外を歩き、それぞれの作品に込めた想いを語ったインタビューをもとにまとめられたものである。
 安土・桃山、江戸時代に生きた3人の芸術家、尾形光琳・乾山、海北友松、小堀遠州を三章立てで小説の内容を織り交ぜながら、解説している。
 第一章の「尾形光琳・乾山『乾山晩愁』」では、尾形光琳死後の尾形深省(のちの乾山)の視点に立って描かれたものである。ゆかりの地を訪れた中で、葉室氏は、深省に対して地味でありながらも、とても優しく温かな、そして豊かな色彩とパワーを感じると語っている。第二章の「海北友松『墨龍賦(ぼくりゅうふ)』」では、建仁寺の雲龍図の作者であり、孤高の絵師として知られる海北友松ゆかりの地、建仁寺などを訪れている。第三章の「小堀遠州『孤篷のひと』」では、茶人であり、官僚そして、作庭家である小堀遠州について語り、それに準えて、自身の死生観も語られている。
 巻末には、「葉室さんと『美』」と題して、澤田瞳子氏の特別エッセイが所収されている。この中で澤田氏は、人の裡なる「美」を追求し続けた葉室氏は、「形ある「美」である美術に心を寄せ、それを作る者を描かんとし、そして、遂には自らの作品を、一つの「美」に昇華なさったのだ。」と記している。
 巻頭の美しい口絵と地図、各章末には、小説の舞台となった地や美術作品を鑑賞できる名所スポットが約40カ所を収録されており、葉室氏の想いとともに京都めぐりを楽しめる一冊である。