『雑草が教えてくれた日本文化史 : したたかな民族性の由来』

作成者
稲垣 栄洋 著
出版者
エイアンドエフ
刊年
2017.10

 植物が茂る季節です。みなさんは雑草と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか。『広辞苑』第7版によると、「雑草」は、「自然に生えるいろいろな草。また、農耕地で目的の栽培植物以外に生える草。たくましい生命力のたとえに使うことがある。」とあります。外国人にとって雑草は邪魔者以外の何物でもなく、良いイメージは全くないのだそうです。しかし日本では、戦国武将が家紋に雑草をあしらっていたり、「雑草魂」といった流行語があったように、雑草には良いイメージもあります。
 古来、日本の農業は雑草との闘いといわれるほど、温暖湿潤の日本は雑草の繁殖が盛んで、その駆除にかける労力は非常に大きいものでした。それなのに、どうして日本人は雑草に良いイメージや愛着を持っているのでしょうか。この本は、そういった疑問をもった雑草生態学者が、植物や雑草という視点から、欧米と日本を比較した日本人論です。
 日本の自然は豊かです。しかし、自然の強大な力は恵みである一方、自然災害など大きな脅威でもありました。そのなかで、人々は自然に逆らうことなく、自然の力を利用する知恵を発達させてきました。そういった点で、日本人は雑草によく似ていると著者はいいます。雑草は踏まれたり、草取りをされるような過酷な場所でひっそりと生き続けます。強い植物が生えることのできないような環境に適応して、特殊な進化を遂げた植物、それが「雑草」なのだといいます。「大きな力に逆らわず、しなやかに受け流す、そして、その逆境を力に変える。」これが雑草の戦略であり、その姿は、大きな変化を乗り越えてきた日本人の姿をまさに連想させるというのです。
 雑草だけでなく植物や自然について新たな視点をくれるとともに、日本人について改めて考えさせてくれる一冊です。