『発酵文化人類学』

作成者
小倉ヒラク著・イラスト
出版者
木楽舎
刊年
2017.5

 近ごろ話題の発酵食品、味噌・醤油・納豆等々。整腸作用、免疫力アップだけでなく、老化の防止やガン予防にも効果的だといいます。「和食」がユネスコ無形文化財に登録されたのは記憶に新しいですが、その味を支える日本古来の発酵食品が果たした役割は大きく、私たち日本人にとって古くから身近な存在です。しかし、その発酵の仕組みや美味しさの秘密について、よく知らないという人も多いのではないでしょうか。
 本書は発酵についてのあれこれを魅力的に楽しく教えてくれます。著者によれば「発酵文化人類学とは発酵を通して人類のくらしにまつわる文化や技術の謎を紐解く学問のこと。」だとか。発酵食品の作り方を説明してくれるのは勿論のこと、地域特有の発酵食品が生まれる理由など、生物・歴史・地理的分野などから幅広く解き明かしてくれます。
 とくに印象的だったのは、発酵食品に携わる4人の新世代醸造家たちのお話しです。彼らの共通点は「人間の手でつくる」こと。手作りのプロセスは複雑なだけにかえって醸造家のやりがいを高め、創意工夫を凝らすそうです。
その様々な過程を伝えることで生産者と消費者のコミュニケーションを密にし、新たなビジネスモデルを生み出しています。伝統の継承と未来の創造の中で、気負うことなく発酵を楽しむ著者や醸造家たち。発酵菌は美味しいお酒をつくるように、人間社会に素晴しいものを醸すようです。
 社会変化の中で価値観も大きく変化しています。発酵の世界から、これからの生きるヒントを探し出せる一冊です。