『いくつになっても、今日がいちばん新しい日』

作成者
日野原重明 著
出版者
PHPエディターズ・グループ
刊年
2017.6

 昨夏のお休みを利用して出かけた旅行の途中、とあるお寺に立ち寄りました。旅行の目的地でもありませんでしたし、観光名所化した有名なお寺でもありませんでしたが、本堂の重厚感のある佇まいに圧倒されました。そうしてもと来た門をくぐって帰ろうとした時、先ほどは目にとまることのなかった文字に気づきました。
 「生きがいとは、自分を徹底的に大事にすることから始まる」。日野原重明氏の言葉です。偉人の名言や格言、ことわざなどが達筆な字で書かれて学校や公民館の前に貼り出されているのを目にすることがありますが、あれの類いです。日野原氏が逝去されてからまだ間もない頃だったこともあり氏の言葉が選ばれたのでしょう。これを目にして、私の心に最初に浮かんだことは、「そんなに自分を大事にする人は自己中心的な人ではないか」という思いでした。
 しかし、そんな短絡的な私に、本書は「私たちに残された有限の生涯をいかに生きるか、考えてみませんか――」と問いかけます。「限りあるいのち」という言葉の前に自分の浅はかさを恥じるほかありません。
 私たちは誰しもいつか死を迎えます。この自明の事実、例外なき法則下に、人間は生き、かつ死んでいくのです。死という言葉には暗く悲しいイメージがまとわりついていますが、本書はけっして暗く後ろ向きなわけではなく、むしろ死に向かって生きているということに明るく肯定的です。日野原氏は言います。いくつになっても新しいことがはじめられる。はじめること、それが自己を形成し、人生を形づくっていく。生き方の選択とは自己を生かすことである。そして、生き方とは死に方である、と。
 人生の主役は自分自身です。「私の時間」が終わる日に向けて、どう自身を輝かせることができるか、その勇気と無限の可能性を本書は与えてくれます。誰よりも真正面から丁寧に自分の生き方に向き合われ、105歳の生涯を全うされた医師・日野原重明氏の人生哲学が凝縮された一冊です。
 本書は2002年に講談社から発刊された『いのちを創る』を改題・再編集のうえ復刊されたものです。その他、当館では『生きるのが楽しくなる15の習慣』(講談社,2002年)、『いのちのおはなし』(講談社,2007年)、『生きかた上手(新訂版)』(いきいき株式会社出版局,2013年)など日野原氏の著書を多数所蔵しています。ぜひ、あわせてご一読ください。