『良いテロリストのための教科書』

作成者
外山恒一 著
出版者
青林堂
刊年
2017.9

 2007年都知事選の政見放送で「政府転覆」を訴えるパフォーマンスをした人が著者、といえば通りがいいだろうか。本書まえがきでは、例の政見放送によって知名度は上がったがキワモノ扱いされて、著作の刊行促進という目的からは逆効果となった、とぼやいている。
 もともと著者は、1980代後半、現世田谷区長の保坂展人らと反管理教育運動に携わる。その後、左派系運動のPC(ポリティカルコレクトネス、言葉狩り的)体質に嫌気がさして転向、「ファシスト」を自称するようになった。その著者が、自らの出自でありながら、現在は「敵」たる左派的運動の背景と歴史を、インタビューに応える形にまとめたのが本書である。
 1950~70年代の運動に関しては通説をわかりやすく解説したうえで、自らが関わった80年代以降の運動については、独自の分析を加える。1970年生まれで、ぎりぎり冷戦が続いた80年代後半に青春時代を送って政治に目覚めた著者は、「世の中に不平不満を持てば左傾するのが当たり前だった最後の世代」という。そうした自分たちの世代の潮流について、社会問題を扱ったブルーハーツの歌の歌詞から「ドブネズミ系」と位置付け、いくつもの例を引きながら解説している。また、その後現代のシールズに至るまでの様々な潮流や運動についても、世代や既存勢力との関係、人物等を検討しながら考察を加えている。
 著者は、昨今の「右傾化した若者たち」が敵のことを知らなさすぎると本書を記したという。が、そういった獲得すべき将来の同志を、言うに事欠いて書名で「テロリスト」呼ばわりするのも、著者独自の露悪趣味、言い換えればサービス精神のあらわれであろう。個々の分析には異論、反論もあろうが、特に書籍に書かれることが少なかった80年代以降の運動史を大きな流れの中で捉えたという点において好著であるように思われる。