『小さな出版社のつくり方』

作成者
永江朗 著
出版者
猿江商會
刊年
2016.9

 日本に出版社がどれくらいあるかご存じでしょうか。『出版年鑑』(2017,出版ニュース社)によれば、その数全国で3,434社(うち2,636社が東京)、従業員数が10名以下の出版社はこのうち1,784社とされています。意外に小規模の出版社が多いと思われたでしょうか。ただ正直なところ、この数字自体に何かを思う方は少ないかもしれません。
 今回ご紹介する本には、数字からは見えてこない、小さな出版社を作った人たちの話が書かれています。組織ではない小さな規模で、自分たちの出したい本を作りたいからと独立した人、畑違いの職業からひとりでできる仕事として選んだ人。作品の寿命が短い産業構造を変えるべく著作権エージェントを立ち上げた人。作ったきっかけや経緯、苦労までもがさらりと自然に語られているのは、著者が各人と程よい距離間を保って対話しているからかもしれません。
 具体的なエピソードはもちろん、思想的に著者とは相容れない出版社も紹介されていることや、全体を通して、新規出版社が参入しにくい大手取次を介した出版産業の状況や課題が見えてくるところにも、本書の秀逸さを感じます。
 多くの方は、本を選ぶときに、まずジャンルや著者の名前や表紙・装幀、そして帯を見て判断するのではないでしょうか。でも、ある意味、本が生み出される揺籃器ともいえる出版社、とりわけここで紹介される小さな出版社を知れば、あなたの本に通じる思考のバックヤードに、「奥行きのようなもの」が加わるかもしれません。出版社がたくさん存在することは、この国の多様性を支えることに繋がっていることを今回改めて思いました。
 さて、本というメディアを考える意味では、3Fにて開催中の「想いを届けるローカルメディア ~フリーペーパー・オブ・ザ・イヤー2017関連展示~」も関係しています。江戸時代の瓦版から始まり出版流通やローカルメディアの関連本、実際に作る際に参考になりそうなデザイン本などが並びます。
 また2Fでは、担当者数名が第一印象で直感的に選び取った本を編集して展示します。普段は手にしない領域の本から、あなたの知的欲求の火が点るような、思いがけない出会いがあるかもしれません。たまには偶然の遊びに自分を委ねてみるのも一興ではないでしょうか。是非ふらりと覗いてみてください。(いずれの展示も11月29日まで)