『転換期を生きるきみたちへ』

作成者
内田樹編
出版者
晶文社
刊年
2016.7

 植物が冬の間に溜め込んだ力を、芽吹きと共に一斉に放つ季節となりました。これを4月1日に読んでくださっている皆さん、いま、あたたかいですか。鶯は鳴いていますか。そこから桜は見えますか。
 春を迎え、新たなスタートを切る方、地域や職場で新しい人と出会う方は多いと思います。そんな始まりの季節に紹介するのにふさわしい本書には、11名による「転換期を生きる中高生に今言いたいこと」が収められています。執筆陣は多士済々で、言葉、社会、職業、憲法、国家、科学などテーマは多岐にわたります。既存の社会システムや価値観が通用しない転換期と言える現代を、複眼的に捉えて問い直し、自ら考えていくための知恵のアンソロジーになっています。
 中高生に向けた根源的な語り口は、もちろん大人にも有効です。個人的には、人口減少の本質的な要因を統計に基づき論じる平川克美氏、教育や政治などの領域も消費社会化することへ警鐘を鳴らす白井聡氏、処方箋として複職・地方・「小さな規模」を提示する鷲田清一氏の章では、日頃感じていた違和感が言語化された感がありました。
 本書を読むにあたっては、内田氏が言うように、書いてあることをすべて正しいと信じるのではなく、信憑性はとりあえず括弧(「」)に入れて受け取る姿勢が求められます。転換期の状況を理解し、展望や全方位的な正解を持ち合わせる大人はいないのです。自分の中にひっかかった言葉を、時間をかけて吟味してください。
 ちなみに今回の書き始めは、内田氏の章にある、言葉を伝えるための「身体に訊かせる」作法を強引に用いてみました。効果やいかに。詳しくは本書をどうぞ。