『足利義稙 戦国に生きた不屈の大将軍』

作成者
山田康宏(著)
出版者
戎光祥出版
刊年
2016.5

本書は足利善植(あしかがよしたね)という、戦国時代に生きた人物の伝記である。義稙は室町幕府10代将軍だが、一般にはほとんど知られていない人物である。だいたい戦国時代の将軍たちは大名たちのあやつり人形で「無力で無能」というイメージが強く評価は低い。また、義稙をはじめとする戦国時代の将軍を扱った本は少なく、あっても織田信長と戦った最後の将軍足利義昭に関するものがほとんどである。彼らへの関心も低いことがうかがえる。
本書の根底にはそうした戦国時代の将軍たちへの低評価に対する疑問や無関心への警鐘がある。著者は史料と研究成果に基づき実証的に義稙を描く。最終的に成功しなかったものの多くの危機や逆境を乗り越え、一定の平和を現出した「隠れた英雄」と評価する。
本書が出版された背景には近年の研究動向がある。これまでの戦国時代の研究のなかで注目されてこなかった地域や勢力、人物について研究や再評価が盛んになっている。著者をはじめとする研究者たちによってその実像の解明が進むにつれ、戦国時代の将軍たちが「無力で無能」という評価は覆りつつある。
本書のサブタイトル「戦国に生きた不屈の大将軍」は、まさに義稙を言い表した言葉であろう。その生涯がいかに波瀾万丈だったかについては、本書を手にとって読んで頂きたい。歴史が苦手な方は少々難しく感じるかもしれないが、今まで知らなかった戦国時代の一面が見えてくるだろう。