『回顧 入江泰吉の仕事』

作成者
入江泰吉写真 ; 入江泰吉記念奈良市写真美術館編
出版者
光村推古書院 (発売)
刊年
2015.11

移ろいゆく四季と古代ロマンが混然一体となった奈良大和路。この地に魅せられ、半世紀近くも被写体の最も魅力的な表情の瞬間を確実にカメラに収めてきた写真家が入江泰吉でした。
没後から二十数年経ちますが、入江作品の魅力は増すことはあっても減じる様子がなく、現在も多くの人々の共感を呼んでいるといえます。
本書は、入江の生誕110年という節目の年に、前作『入江泰吉の心象風景 古色大和路』(2012年)の姉妹本というかたちで刊行されたものです。前作が大和路の風景や仏像を中心にした入江作品の紹介という形で編まれたのに対して、本書は入江の写真人生と作品を年代別に区切って辿っています。戦前の大阪時代、「文楽」の魅力に惹かれて撮影した作品を紹介した
第1章「写真家への歩み「文楽」(1940年代~)」。続く第2章「新たな道を求めて(1945年~)」では、終戦の年(昭和20年)の3月、大阪大空襲により自宅と店舗が全焼し、傷心のまま故郷奈良へ引き揚げ、失意と焦燥の日々の中で、ふとしたきっかけでライフワークのテーマとなる「大和路」との運命的な出合いを記しています。第4章「奈良大和路の写真家として(1950年代後半~)」や第5章「新たな大和路を求めて(1970年代~)」、第7章「大和路に魅せられて(1975年頃~1991年)」では、叙情的で仏教文化の遺産が数多く現存する大和路をこよなく愛し、写真という表現形式をつかって「入江調」と呼ばれる作風を創出した入江の人物像と足跡を作品と短文で紹介しています。
本書には他に、生前発表されることのなかったスナップ写真やルポルタージュ作品「佐渡旅情」、万葉の花の撮影へとつながる前段として試験的に行った「造形」作品の撮影なども収めていて、コンパクトに入江泰吉の世界を俯瞰することができます。