『図説だまし絵 : もうひとつの美術史 : 新装版(ふくろうの本)』

作成者

谷川渥著

出版者

河出書房新社

刊年

2015.12

だまし絵とは「目をだます」「目をあざむく」という意味のフランス語、トロンプ=ルイユを訳したものです。だまし絵と聞いて、同じ長さなのに違って見える2つの線やアヒルに見えたり兎に見えたりする図像、実際にはありえない立体を描いた絵画を思い浮かべる人も多いかと思います。しかし、だまし絵とは本来そういった視覚的なトリックを用いた作品の事ではありません。心理学的錯視を利用した絵はトリックアートと呼ばれ、図書館でもそれらを扱った本は美術ではなく心理学のジャンルに分類しています。本書では錯視ではなく、だまし絵の中核である「本物そっくり」という視点から、美術史を切り取っています。
最初に取り上げられているだまし絵は、建物内部に円柱や扉を描き、その向こうにさらに空間が拡がっているように見える壁画や天井画です。これらは建築空間を偽装し、額に納まらず、見る人に奥行きを感じさせます。次に紹介される作品は、人物画にとまった蠅、絵の上に止められているかのような貼り紙によって、絵よりも前の空間を表現し、絵をまるで実物として存在しているかのように錯覚させる効果を意図しています。また、台の上に絵や絵筆などが置かれているようにみえて、実は台などを含めて1枚の絵であるという、一見どこからが絵なのかわからない作品もあります。変形キャンヴァスを使った「切り抜き絵(カット・アウト)」というもので、著者は究極のだまし絵だといいます。
他にも、奥行を感じさせる戸棚、絵を多層的に見せるカーテンといっただまし絵のモチーフが描かれた図版を多数収録しています。本書を読むと従来の「だまし絵観」が変わるのではないでしょうか。眼と同時に頭において、感性と同時に知性においても楽しむことのできる一冊です。