『エコハウスのウソ 増補改訂版』

作成者
前真之著
出版者
日経BP社
刊年
2015.12

 去る4月1日に電力の小売りが全面自由化され、私たちは電気の購入先を選べるようになりました。当館でもこのタイミングに合わせ、4月末まで「電気〜暮らしのエネルギー〜」と題して関連図書を展示したところです。
 既存の電力会社と新電力と呼ばれる新規参入業者が競争する中で、料金や特典で判断するか、あるいは再生可能エネルギーによる発電割合を重視するか、個人の考え方や哲学によって購入先の選択理由はさまざまだと思います。
 来年にはガスの小売りも全面自由化されますので、生活に欠かせないエネルギーについて、今後ますます意識する機会が増えるのではないでしょうか。
 本書は、東京大学で建築環境を研究している著者が、エコハウス=化石エネルギー消費量の少ない家と位置づけ、住環境に関する誤解を解き明かす書です。
 たとえば日本の断熱基準を最低限クリアしてもあまり省エネにならないことや、人間は暑さに強いこと、電力消費量全体に占める冷暖房の割合が低いことなどを、具体的な数字や図を用いてわかりやすく説明しています。
 また何かと毛嫌いされるエアコンについて、除湿と冷房を効率的に行える器具は他になく、暖房としてもエネルギー効率が良く空気汚染も少ないため、快適性と省エネの両方に有効で太陽光発電との相性も抜群と論じています。
 吉田兼好は『徒然草』の中で「住まいは夏を旨とすべし」と言いましたが、優れた放熱能力を持つ人間の体は低体温を防ぐため寒さを敏感に感じるようにできており、しかも日本では冷房よりも暖房を必要とする時間が圧倒的に長いことから、著者の主張は「冬を旨とすべし」です。
 さらに夏を旨とする住まいは通風に偏重して多湿に弱いことを指摘し、冬を旨として高断熱で高気密の部屋に高効率なエアコンを設置すれば、簾(すだれ)を下げて日射を遮るなどの工夫で夏も快適に過ごせるとしています。
 冷暖房とは、読んで字のごとく部屋を冷やす・暖めることで、人の体を直接冷却・加熱することではありません。著者は「空気と壁を適当な温度に保つ」と表現し、体全体から均等に穏やかに放熱させるために必要なことと述べています。私自身エアコン冷房が苦手だったのですが、それはどうやら温度ムラが原因のようです。また、電気ヒーターなど体の片側を加熱する採暖は、血管や心臓に大きな負担をかけるとのことなので、今後はサーキュレーターを活用するなどして健康と省エネの両立を目指したいと思います。
 このように、本書はこれから家を建てようという人はもちろんのこと、そうでない人にとっても、快適な環境づくりやエコ対策にとても参考になります。