『古事記と太安万侶』

作成者
和田萃 編
出版者
吉川弘文館
刊年
2014.11

本書に登場する奈良県磯城郡田原本町は、奈良盆地のほぼ中央、古くから「国中(くんなか)」と呼び慣らわされてきた地域にあります。この地には、弥生時代から古墳時代にかけて大規模集落を形成した唐古・鍵遺跡があり、古代には東に中ツ道、中央に下ツ道、その西方域に筋違道が所在し、大和川本流である初瀬川などの水運にも恵まれた地域です。
この「優れて良い所」という意の「まほろば」という寿ぎの言葉があてはまる地域の南に、広大な社叢が拡がる多神社が鎮座しています。同社は、古代の有力豪族であった多氏の本拠地に祀られ、神武天皇の皇子である神八井耳命(かむやいみみのみこと)を祖としています。神八井耳命から数えて15代目が『古事記』の筆録と編纂に携わった太安万侶であると伝えられ、太安万侶から数えて51代目が現宮司であるといわれています。
本書は、平成24年(2012)11月に、田原本町で開催された「古事記一三〇〇年紀」記念フォーラムの概要と、シンポジウム「やまとのまほろば田原本」の記録集です。
記録集では、田原本や多神社の歴史にも触れながら、太安万侶や『古事記』の実像に対して、国文学をはじめ考古学や記紀神話研究の専門家たちが、さまざまな角度から迫っています。
古代史や記紀神話に登場する主要な事跡の舞台となり、そこに登場する人物の子孫が現存し、地域社会と深く結びついている。大和という地は、普段着の生活の中で、脈々と歴史や文化が受け継がれている土地柄であることを、本書によって改めて認識させられます。