『深海:鯨が誘うもうひとつの世界』

作成者
藤原義弘監修・写真・文 なかのひろみ構成・文
出版者
山と溪谷社
刊年
2014.10

深海とは、一般的に植物プランクトンが光合成できる限界とされている水深200mより深いところを差す。海の95%程度は深海であり、その大部分が前人未踏の未知の世界となっている。
本書は、生きた深海生物の貴重な姿を見ることができる写真集である。深海生物学者である著者が撮影した約5万点の写真とJAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)の膨大な調査画像の中から厳選された写真は、どれも神秘的で、見る者を魅了する。
2013年6月8日、JAMSTECがマッコウクジラの遺骸を相模湾の水深500mに沈め、クジラの遺骸追跡実験を行った。その結果、カグラザメ(神楽鮫)や、イタチザメ(鼬鮫)が肉を食む姿や大量のコンゴウアナゴ(金剛穴子)、深海の死骸掃除請負屋とされるムラサキヌタウナギ(紫沼田鰻)、海の掃除屋オオグソクムシ(大具足虫)、悪食の赤鬼と呼ばれるエゾイバラガニ(蝦夷茨蟹)などが確認された。通常、深海に沈んだクジラの遺骸がつくる生態系【鯨骨生物群衆】では、サメなどがすぐに食い荒らしてしまうため、今回のように肉を食む姿を見られることは珍しいという。光のない闇の中で繰り返される食物連鎖。鯨骨生物群衆では、肉を喰うもの→骨を喰うもの→腐ったクジラの骨に暮らすもの→鯨骨に集うものがいるというサイクルが完成されているが、実際に写真で見ることができるのはとても貴重である。
掲載されている深海生物の中には、とても鮮やかな色をした生物も多数いる。通常ならば、光の届かない暗闇で色が目につくことも無い。鮮やかな色彩で写された写真の数々に、これが彼らの本当の姿なのか、と驚かされる。
他にも、海底から湧きでる熱水や湧水で見られる生態系【熱水噴出孔生物群衆・湧水生物群衆】や、海底に沈んだ木材を中心とした生態系【沈木生物群集】など、実に多彩な生物が写真とともに紹介されている。深海生物の美しい姿と、最先端の深海情報がわかりやすく解説されているので、是非ご一読下さい。