『若い人に語る奈良時代の歴史』

作成者
寺崎保広著
出版者
吉川弘文館
刊年
2013.10

 改めて言うまでもなく、歴史ブームが盛況です。しかし、時代小説やドラマで取り上げられるのは戦国時代や江戸時代が多く、奈良時代の人物や出来事が取り上げられることは少ないように思います。
 本書は奈良時代の歴史について、奈良大学教授の著者が講演や講義で話した内容を元に文章化したものです。表題に「若い人に語る」と掲げているのは、歴史を学ぶ面白さを若い人に味わってもらいたいと考えたからとのこと。
 「歴史のおもしろさは、知識を広く浅く集めることではなく、事実を積み重ねて、それを深く考えることにある」と著者は言います。そこで、歴史の流れをわかりやすく、そしてなぜそうなったのかを読者に考えてもらうために、あえて著者独自の視点から奈良時代の歴史が書かれています。そのため、通史的な記述はされていませんが、当時の天皇や官僚組織、外交などについても解りやすく書かれているので、奈良時代についてより深く知ることができます。
 また、奈良時代を考える上で基本となる史料についても紹介されています。
 よく知られている『続日本紀』『万葉集』など以外にも、金石文や遺跡から出土した文字資料などが挙げられており、それぞれのもつ特徴について解説されています。特に、木簡など偶然に残った史料は、正史には表れない当時の日常を知る重要な手掛かりとして紹介されています。
 若い人だけに限らず、これから勉強を始める人にとって、入門書と言える一冊です。まもなく正倉院展が開催されますが、観覧前に予備知識として読まれるのも面白いのではないでしょうか。