『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』

作成者
佐々涼子著
出版者
早川書房
刊年
2014.6

 朝晩、すっかり涼しくなってきました。秋といえば、やはり読書の秋ですね。流行の電子書籍も便利で良いですが、部屋でゆっくり紙の本を読むのも、秋の夜長の至福な時間の過ごし方ではないでしょうか。とはいえ「やっぱり紙の本が好き」と思っていても、その紙が実際にどこでどのように作られているのかを考えたことは今までありませんでした。そのことに気付かされたのが、今回ご紹介する本です。
 日本の出版用紙の約4割は日本製紙で作られており、その基幹工場が石巻工場です。しかし、2011年3月11日に起きた東日本大震災で被災し、巨大津波に呑み込まれ、その機能は完全に停止しました。工場内に水、車や家などの瓦礫、遺体までもが流れ込み、従業員でさえ復旧は無理だと考えた中、工場長はたった半年での復興を宣言します。本書は震災の絶望から、工場の復興までを徹底取材したノンフィクションです。
 食料も不足し、水道・電気といったライフラインも復旧していない状況の中で、出版社や本を待つ読者のために、熱意と誇りを持って職務にあたる人々の姿が描かれています。本書を読むと、今まで以上に本を大切にしなければと思います。本好きの方には特におすすすめです。また、震災時の実情、日ごろの防災対策の大切さ、リーダーシップの重要性などを考えさせられることも多くあります。
 震災の記憶を忘れないためにも、当たり前に物がある日常がどれだけ恵まれているのかを再認識するためにも、ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。