『すし物語』

作成者
宮尾しげを著
出版者
講談社学術文庫
刊年
2014.5

  東京浅草生まれの江戸風俗研究者である著者が、すしについて薀蓄を傾けて著したのが本書です。著者は文楽、民俗芸能、庶民街芸、近世文学、江戸小噺などにも造詣が深く、本書でも豊富な知識を披露して「すしの日本史」を解説しています。

  すしの食べ方から始まり、歴史、材料、職人、すし屋、東西のすし文化、すしにちなんだ川柳や俳句、文献の紹介と、様々な切り口で「すしの世界」を案内していきます。すしの歴史の項では、『酉陽雑俎』(ゆうようざっそ)、『山堂肆考』(さんどうしこう)という中国の書物に、安禄山という人物が唐の玄宗皇帝から玄猪鮓なるものを賜ったという記事を紹介。日本においては、持統天皇の時代に出た『賦役令』(ぶやくりょう)に、雑鮓、鰒鮓、鮎貝鮓といった文字が出てくるのが、日本にすしがあったという最も古い文献であると、すしの歴史を紐解いていきます。

 解説の中で紹介されている文献の多さや分野の広さにも驚きます。全編をとおして、解説は微に入り細を穿つといった記述になっていて、本筋から脱線した話も興味深く読むことができます。また、喜田川守貞の『守貞漫稿』を始め、天保時代に出された『江戸名物詩』や天明時代の『絵本江戸爵』(えほんえどすずめ:喜多川歌麿画)などの資料に納められている風俗画を多用することで、読者の理解を助けています。

 ハンディーな文庫サイズの本書には、日常生活の中で食するすしについて、見方や味わい方が深まる知識が詰まっています。