『見えない文字と見える文字 : 文字のかたちを考える』

作成者
佐藤栄作著
出版者
三省堂
刊年
2013.5

 「ロ」という字を見て、皆さんは何と読むでしょうか。片仮名の「ろ」でしょうか、それとも漢字の「くち」でしょうか。フォントによって微妙な違いはあるものの、両者の違いを一文字だけで判断するのは至難の業です。これは、どちらも図形の四角に基づいて書かれているからです。このような「ロ」が基にしている図形の四角の事を「字体」と言います。字体は文字を読み書きするとき、判断基準となるもので、頭の中に存在する「見えない文字」です。本書では、「字体=見えない文字」という捉え方で、様々な事例を挙げながら、日本語の文字のかたちについて考察しています。
 「ツ」のような「シ」を書いたり、「ソ」のような「ン」を書いたりと、混同してしまう人がいます。これは、点の位置を重視して字体を把握するタイプの人と、線の向きを重視して把握するタイプの人に分かれるために起こります。後者が書いた「シ」は、線の向きは下から上へのはねあげですが、点の位置を重視せずに横に並べて書くため、「ツ」に見えてしまうのだそうです。
 著者は仮名や漢字の成り立ちに言及し、字体が確立していく過程を示す中で、上記のような字体が似ているものの間違いに対して寛容です。しかし、漢字を読めるけれど書けないという人が増加するなかで、頭の中の「見えない文字」が「ぼんやりした字体」になってしまうことに警鐘を鳴らしています。パソコン等、機械が準備してくれた漢字を選ぶことはできても、書くことができなければ、字体を知っているとは言えません。また、字体は文字を墨で縦書きするという書き方によって形成されましたが、今後パソコン等で横書きに打つ方法によって、時代に合わせた変化をしていくと可能性が指摘されています。実際、横書きしやすいように、ハネやハライを途中で止めて書く人が増えているようです。
 自分の手書きの文字と、パソコン等で打った文字とのかたちの違いを楽しみながら、読んでみてはいかがでしょうか。