『「金縛り」の謎を解く:夢魔・幽体離脱・宇宙人による誘拐』

作成者
福田一彦
出版者
PHP研究所
刊年
2014.2

  以前、連日の金縛りに悩んでいた時期がありました。
 金縛りの最中は意識がはっきりとしており、霊的なものが見えたりするので、恐怖感が半端ではありません。そこで友人に相談したところ、無防備に大の字で寝ると霊に付けいられるので、片方の足をもう一方の足の上に乗せるとよいとアドバイスされました。実行すると本当に金縛り遭遇率が激減したので、以後寝るときは必ず足をクロスさせています。この経験から、私は金縛り=心霊現象と信じて疑いませんでした。そう、本書を読むまでは…
 ということで、今回ご紹介するのは、金縛りが心霊現象ではなく、生理学的な「睡眠麻痺」という現象であることを科学的に説明した一冊です。
 本書によれば、金縛りの最中に見るものには生まれ育った地域によって違いがあり、日本や中国では霊が、ヨーロッパでは悪魔や魔女が、アメリカでは宇宙人が目撃談に多いのだとか。
 これは、民間伝承やメディアなどの文化的背景が影響を及ぼすためで、結局のところ、自分が見たものは自ら作り出した記憶だったわけです。これを「入眠時幻覚」と呼ぶそうです。
 確かに、金縛りの最中に頭上をミニUFOが飛んでいたという知り合いがいますし、かくいう私も「貞子」を見たことがあります(映画版『リング』をご存じの方なら、どれだけ怖いかわかるはず)。あれもこれも、自分の脳が創作した幻覚だったのですね。
 ところで、金縛りが心霊現象でないということは、以前から常識だったのでしょうか。
 当館で提供しているオンラインデータベース『JapanKnowledge』で「金縛り」を検索すると、『デジタル大辞泉』に「睡眠麻痺のこと」とあります。
『デジタル大辞泉』は年に3回更新されており、2012年11月刊行の書籍版『大辞泉第2版』にはこの記述がないことから、最近追加された項目であることがわかります。
 辞書に載るほど一般化したのが最近なら、その前は金縛り=心霊現象だったのかと新聞記事のオンラインデータベースで調べてみると、1978年615日の読売新聞の人生案内欄に「就寝時に“金縛り”」という見出しがあり、睡眠時の金縛りについての悩み相談に対し、東京大学の平井富雄先生が「霊の仕業でも何でもありません」と明言されていました。
 私が足クロスを始めるずっと前に、こんな回答がなされていたとは!
 なお、著者は睡眠の研究者で、本書では夢や睡眠のメカニズムなどについても章を設け、90分の倍数で眠れば朝すっきりと目覚める、ホットミルクを飲むと安眠できるといった説についても科学的に検証されていますので、ぜひご一読ください。