『超訳努力論』

作成者
幸田露伴 [著]/三輪裕範編訳
出版者
ディスカヴァー・トゥエンティワン
刊年
2013.11

  幸田露伴の人生に対する心の持ち方や姿勢が最もよく表れているのが、「努力論」と「修省論」である。これらは、青年や若者に向けて、どのような心の持ち方をすれば人生を肯定的、前向きに生きていけるかということを説いたものである。しかし、現代の読者には、原著を読んでも理解することは難しくなっている。本書は、平易な現代文に書き直した上で、重要なエッセンスを抜き出して読みやすいように編集したものである。
  露伴はいう。そもそも、努力とは、意志の火を燃え立たせて感情の水に負けないようにし、いつまでも情熱を燃やし続けることをいうのだ。人生の意義は努力することにある。努力以外に我々の未来をよくするものはなく、努力以外に我々の過去を美しくするものはない。努力は成果と関係なく、するべきものだと説く。易きに流れやすい我々には耳の痛い話だ。
 また、幸福を引き寄せる生き方として「惜福、分福、植福」の「幸福三説」を提唱している。惜福は福を使い果たさず、そのうちの一部を別に置いて置くことだ。分福は自分の持っている福を人に分け与える積極的行為だ。植福とは、世の中の幸福を増進し育てていく行為のことで最高の福だという。確かにそうかも知れない。
  知識に深浅厚薄があるように、感情にもレベルの違いがあるという主張も新鮮だ。しかも知識と同様に、感情も私有物ではなく、感情にも教養と訓練が必要で、品格のある高級な感情さえあれば、どんな場合でも同じような思いやり、気の毒に思う感情を持つようになるという。
  「努力」や「修省」という言葉は今ではあまり流行らないが、露伴が「努力論」や「修省論」の中で言っていることは、いつの時代においても輝き続ける人間の英知であるように思われる。
  一読をおすすめしたい。