『時代劇の見方・楽しみ方 時代考証とリアリズム』

作成者
大石学著
出版者
吉川弘文館
刊年
2013.

  今回ご紹介する本は、近世史の研究者でNHK大河ドラマや映画など多くの作品の時代考証に携わってきた人物が書いた、 時代劇の時代考証についての本です。
  著者によると、最近はバッサバッサと人を切るチャンバラ主体の時代劇は衰退し、代わって現代劇とも言える新しい形の時代劇が 支持を集めているそうです。この背景には、江戸時代を「未開で封建」(前近代的)な時代という観念から「初期近代」とする観念の根本的転換が あったと指摘しています。たしかにチャンバラが日常茶飯事で(たとえ正義のためでも)人を切り殺してお咎めも無いというのはおかしな話です。 こうした従来の時代劇に対し、新しい時代劇は登場人物の日常や感情をテーマにし、より現実的な江戸時代を描写します。
  たとえば新しい時代劇では、江戸時代に生きた人々の日常が数多く登場します。そこでは、場面のセリフや小道具にいたるまで、 細部にわたってチェックをおこないます。我々が昔からあると思っている食べ物や、教科書に出てくる歴史用語でも、同時代に無ければNGとなります。 このような場合、歴史学だけではなく、建築史や風俗史、食物史、被服史等々、多くの研究分野の成果が必要になるわけです。
  また、登場人物の感情や性格についても、実在の人物については、本人や周囲の人間が残した記録を丹念に調べて人物像が作られます。 既に知られた史料だけでなく、新たに発見された史料の研究成果も踏まえて実像に迫るとのことです。
  著者は現在、時代劇を支える学問として「時代考証学」を提起しています。これは、様々な分野の研究成果を統合した時代考証を基礎 づける学問であるといいます。今後の時代劇は「時代考証学」の成果によって、主人公や歴史環境がよりリアルに描かれることになるでしょう。
  歴史は誰の前にも開かれています。この本を道標に、時代劇に対して自分なりの時代考証をしてみるのも面白いのではないでしょうか。