『ライブハウス「ロフト」青春記』

作成者
平野悠著
出版者
講談社
刊年
2012.6

  まだ、関東に住んでいたころ、よく新宿のロフトプラスワンへ足を運んでいた。トークライブハウスを名乗るこの店は日毎にイベントがあり、飲食し ながらステージの話に耳を傾けるという場で、活字でしか知らなかった作家、評論家、政治家等々が生で論じあっているのを見るのは、それだけで興奮し た。加えて、出演者も客も多くは飲みながらということもあり、予定調和に終わらない激論やハプニングが魅力的だった。本書の著者平野氏もよく顔を 出し、フロアから自分たちが呼んだ出演者に対して容赦のない突っ込みを入れていた。
  著者はジャズ喫茶の経験を踏まえ、1970年代前半にライブハウス西荻窪ロフトをオープン。飲食の売り上げで、必ずしも売り上げに結びつかない ロックやフォークのライブを維持するというスタイルで店舗を維持、拡大していく。あえて名前は出さないので、興味のある向きは本書で確認してほし いが、その後ビッグネームとなるミュージシャンの多くが、ロフトから巣立っていっている。特に、日本のロックの定着にロフトが果たした役割は大き く、80年前後には、ライブハウスという業態自体がすっかり定着し、音楽業界の中で確固たる地位を築くようになる。本書の叙述の中心は、そのただ なかにいた著者の目から見た70年代音楽業界史である。
  しかし、そうした「成功」とはうらはらに、著者はライブハウスの経営と商業化したロックに情熱を失っていく。店舗を人に任せ、1984-92年 には海外を放浪することになる。この間以降のロフトの動向に関しては、エピローグで簡単に触れられるにとどまっている。
  本書は、ライブハウスと日本のロック黎明期の記録という意味では、完結しているといえる。しかし、著者の個人史としては、海外での生活やロフト プラスワン開店をめぐるエトセトラ等が残されている。これらは、Web上で公開されているとはいえ、ぜひ、本書の続編という形で読んでみたい。