『初代伊藤忠兵衛を追慕する―在りし日の父、丸紅、そして主人―』

作成者
宇佐美英機編著
出版者
清文堂出版株式会社
刊年
2012.10

  本書は、日本を代表する総合商社、伊藤忠商事株式会社と丸紅株式会社の創業者、初代伊藤忠兵衛について、父を追慕する二代忠兵衛の文章や、初代 が存命していた時期に伊藤諸店に勤務していた店員たちが思い出を綴った文章などを一書にまとめたものである。
  初代忠兵衛は、天保13(1842)年に近江国犬神郡八目村(滋賀県犬神郡豊郷町八目)に誕生し、明治36(1903)年に享年62歳の一生を 終えている。その生涯は「近江商人」であることの自負心をもって経営・社会活動に終始したが、著名な人物でありながら、今に至るまでその足跡を明 らかにできていない。初代忠兵衛を語る膨大な史料は保存されているが、いまだ滋賀大学経済学部附属史料館において整理中である。そのため、すでに 活字化されている文献情報を提供し、初代忠兵衛と伊藤各店の経営の一端について共通理解を深めることが本書の目的である。
  初代忠兵衛は、僅少の歳月で親・兄の身代を凌駕し、明治5年30歳の時に大阪を根拠として発展していく。自己の事業は、世に寄与し光輝あるもの との信念の下に家業に当たっていた。部下・店員の養成や、それらの人々の独立も社会的な務めであり、社会事業であるとの考えをもっていた。さらに 商売道の尊さは、売り買いいずれをも益し、世の不足をうずめ、菩薩(御仏)の心にかなうものと考えていたという。
  本書を読んで、初代伊藤忠兵衛が魅力あふれる人物であったことが随処にうかがわれる。史料が整理され、幕末から明治期にかけて伊藤忠兵衛家が商 社へ発展していく過程が解き明かされることを期待する。