『百年文庫』全100巻

出版者
ポプラ社
刊年
2010~2011

 東京の紀伊国屋書店新宿本店の文庫フェアのニュースをネットで見た。その後、朝日新聞の天声人語(8/27)でも取り上げられていた。文庫フェ アでは、小説の作者と書名を伏せて、書き出しの一文だけを印刷したカバーで本をくるみ、固くラッピングして、買って開けるまで中身が分からない状 態にしてあったそうだ。棚には100冊が並び、「本の闇鍋(やみなべ)」というネット評で話題になっていた。
  本を選ぶ時、著者・書名や色とりどりの表紙、出版社のキャッチコピー、書店の手作りポップと、いろんな情報が目に入ってくる。そんな環境の中、 本選びは時として閉塞感をもたらすことがある。しかし、棚に所狭しと並ぶ本は、未知の世界へと運んでくれる宝船のようだ。自分の興味のある分野や お気に入りの著者だけで終わってしまうのはもったいない気がする。
  今回紹介する『百年文庫』は、白い表紙に漢字ひともじのタイトルのシンプルな装丁で、1冊に3人の作品が収録されており、日本と世界の名短編を 味わうことができる。
  例えば、4巻の「秋」は、志賀直哉『流行感冒』、正岡容『置き土産』、里見弴『秋日和』、14巻の「本」は、島木健作『煙』、ユザンヌ『シジス モンの遺産』、佐藤春夫『帰去来』、42巻の『夢』は、プルガー『すみれの君』、三島由紀夫『雨の中の噴水』、ヘミングウェイ『フランシス・マカ ンバーの短い幸福な生涯』となっている。   その日の気分に合わせて選ぶのも楽しいし、1巻から順番に読んでもいい。 ランダムに読んでも楽しめる、そんな100冊になっている。名前は知っているけど読んだことがないという人にもオススメ。
  読書の世界が広がる100冊である。