『青木繁とその情熱』

作成者
かわな静著
出版者
てらいんく
刊年
2011.7

  今年は“夭折の天才画家”青木繁の生誕130年目にあたります。
  本書は、青木繁の誕生から28歳で没するまでの短く激しい生涯をまとめた評伝です。
  青木繁という名前にピンとこない人でも、彼の『海の幸』という絵は美術の教科書などで目にしたことがあるのではないでしょうか。銛(もり)を持 った裸の漁師たちが仕留めた獲物のサメを担いで浜を歩いている、横長のあの絵です。
  天才肌の彼は実に“オレ様”な性格で、東京美術学校(現東京藝術大学)で学んでいた当時、黒田清輝や藤島武二といった、これまた美術の教科書に 必ず登場するビッグネームたちが教授だったにも関わらず、授業をよく抜け出して図書館に通い詰め、古事記や日本書紀などの神話を読み漁っていたそうです。
  そして、21歳の時にイザナギ・イザナミの物語を題材にした『黄泉比良坂(よもつひらさか)』で白馬会賞を受賞し、華々しくデビューしました。 詩人の蒲原有明はこの象徴主義的な絵を見た時の衝撃を、蟲惑的画家(『飛雲抄』所収)と題した随筆で「こんな名状すべからざる感動を受けたこと は、ついぞこれまでなかった」と記しています。
  それまで、日本神話は日本画による挿絵のような作品がほとんどだったのを、青木繁は、文章と組み合わせなくても一枚の絵として成立する表現方法 を追求し、『大穴牟知命(おおなむちのみこと)』や『日本武尊(やまとたける)』などを描きました。
  特に、釣り針を探しに海底の宮殿に来た山幸彦が、海の神の娘である豊玉姫に出会った場面を描いた作品『わだつみのいろこの宮』は代表作とも言わ れ、夏目漱石の小説『それから』にも登場しています。
   当館では、3階ブリッジにおいて、今月27日まで図書展示「古事記の世界をよむ」を開催しています。当館には青木繁の画集もありますので、絵画 作品もあわせて楽しまれてはいかがでしょうか。
  なお、本書は児童文学専門の出版社から発行されており、中学生以上を読者対象としています。古事記の世界への入り口にもなる一冊です。