『神道入門:英和対訳』

作成者
山口智著
出版者
戎光祥出版
刊年
2012.1

  著者は、神職資格を取得して古郷奈良の小さな神社の神主も務めている。 長い外国勤務の間に、日本の文化は神道を基盤に形成されていると実感するようになり、40歳代になって神道の勉強を始めた。本書は外国人とりわけ 英語圏の人々に神道についての全般的な説明するために書かれたものである。本書の英文タイトルが
『Shinto from an International Perspective(国際的観点からの神道)』
となっているように、広い視野から説明されている。   まず、翻訳にあたって、神道における信仰の対象、日本語のkamiを単数にも複数にも使っている。これは、神道がアニミズムに端を発し、生成力、 自然物、自然の力といったタイプの神も存在するためで、一神教に代表されるキリスト教のGodや、同じく自然現象や人間における定めや矛盾・困難 を擬人的に表現した古代ギリシャ・ローマのgodsを連想させることがないようにとの配慮である。
  また、神社は、通常shrineと訳されるが、英語では、墓や遺骨などの聖遺物を納めた箱、神聖視されている祭壇や礼拝堂を意味しがちである。 しかし、神社は、神が鎮座または降臨する、礼拝のための場所のことである。 本殿には御神体または御霊代(みたましろ)と呼ばれる神聖なものを納めるが、これ自体は神ではなく、神霊が拠り付くためのもので、御神体は公衆に 見せられることはないと断っている。   このほか、神道では、祈りは本来共同体の福利のためであり、個人のための祈りは後から発達したものである。キリスト教では決して人は神(God) にはなれないが、神道においては神々と人の間には連続性があり、人は神になり得るという。人は自然の一部であり、自然は生命力を持ち尊敬と崇拝の 対象である。また、肉体の死後も魂は生き続けるという考えは他の宗教にも見られるが、天国や極楽、地獄を説明することが無く、統一された観念を持 っていないなど、神道の特徴についてわかりやすく述べている。   日本人の考え方が、外国と比較してはじめて理解できることも多い中で、本書は神道に関する日本人のためのよき入門書でもある。