図書館員の気になる一冊
図書館員がおすすめする本をご紹介します。
奈良県立図書情報館メールマガジン でも105号(平成21年11月1日発行)から配信しています。
- 『「眠り」をめぐるミステリー:睡眠の不思議から脳を読み解く(NHK出版新書372)』櫻井武著 NHK出版 2012.2
- 『すごい夜空の見つけかた 』林完次写真・文 草思社 2011.7
- 『凸版・活版印刷でいくのだ!』(デザインのひきだし : プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・ 加工の実践情報紙10) グラフィック社編集部編 グラフィック社 2010.6
- 『ルーヴル美術館収蔵絵画のすべて』エリック・レッシング写真 ヴァンサン・ポマレッド監修・解説 アーニャ・グレーベ絵画解説 藤村奈緒美 [ほか訳] ディスカヴァー・トゥエンティワン 2011.12
- 『名将の言葉:武人の生き様と美学: 90 quotes』本郷和人著 パイインターナショナル 2022.6
- 『宇宙のはかり方(ビジュアル雑学図鑑1)』縣秀彦監修 グラフィック社 2011.8
- 『本へのとびら : 岩波少年文庫を語る』宮崎 駿著 岩波新書:新赤版 1332
- 『フェルメールの食卓:暮らしとレシピ』林綾野著 講談社 2011.7
- 『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』工藤美代子著 メディアファクトリー 2011.5
- 『だれか来ている 小さな声の美術論』杉本秀太郎著 青草書房 2011.7
- 『ユダヤ人の起源 : 歴史はどのように創作されたのか』シュロモー・サンド著/佐々木康之, 木村高子訳 WAVE出版 2010.3
- 『利他のすすめ チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵』大山泰弘(著) WAVE出版 2011.4
- 『ビジネスで一番、大切なこと』ヤンミ・ムン(著) 北川知子(訳) ダイヤモンド社 2010
- 『けんちく体操』チーム建築体操 エクスナレッジ 2011.4
- 『知ってる?正倉院−今なおかがやく宝物たち−』読売新聞社編 ミネルヴァ書房 2011.6
- 『復興のための暮らしの手引き』第一東京弁護士会東日本大震災対策本部 「ここから/KOKO-KARA編集委員会」2011
- 『池澤夏樹の世界文学リミックス』池澤夏樹著 河出書房新社 2011
- 『小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡:挑戦と復活の1592日:Hayabusa』的川泰宣著 PHP研究所 2010.10
- 『緑のアイデア』石原和幸著 WAVE出版 2010.12
- 『宇宙飛行士の育て方』林公代著 日本経済新聞出版社 2010.10
- 『地震の日本史 : 大地は何を語るのか(中公新書1922)』増補版 寒川旭著 中央公論新社 2011.5
- 「打ち水大作戦のデザイン」打ち水大作戦本部 編 インプログレス 2009
- 「木村秋則と自然栽培の世界 : 無肥料・無農薬でここまでできる」木村秋則責任編集 日本経済新聞出版社 2010.6
- 「キムチの文化史 朝鮮半島のキムチ・日本のキムチ」佐々木道雄著 福村出版 2009.9
- 「ハーバードの『世界を動かす授業』」リチャード・ヴィートー 中條亮子著 徳間書店 2010
- 『陵墓と文化財の近代』高木博志著 山川出版社 2010.1
- 『時を貫く記録の保存−日本の公文書館と公文書管理法−』全史料協近畿部会編 岩田書院 2011.3
- 『さくら百科』永田洋 [ほか] 編 丸善 2010.1
- 『これからの防災・減災がわかる本』岩波ジュニア新書603 河田惠昭 著 岩波書店 2008
- 『巨大翼竜は飛べたのか:スケールと行動の動物学』佐藤克文著 平凡社 2011.1
- 『元素図鑑:世界で一番美しい』セオドア・グレイ著;武井摩利訳 創元社 2010.11
- 『柑橘類(シトラス)の文化誌―歴史と人との関わり』ピエール・ラスロー著 寺町朋子訳 ;東京 : 一灯舎, 2010.9
- 『おとな養成所』槇村さとる著 ;東京 : 光文社, 2010.7
- 『風をつかまえた少年 : 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』ウィリアム・カムクワンバ, ブライアン・ミーラー著 ; 田口俊樹訳 東京 : 文芸春秋, 2010.11
- 『だから人は本を読む』福原義春著 東洋経済新報社, 2009.9
- 『すぎされない過去 : 政治時評2000-2008』井出孫六著 みすず書房, 2010.7
- 『おおきな木』シェル・シルヴァスタイン著 村上春樹訳 あすなろ書房, 2010 ほんだきんいちろう(本田錦一郎)訳 篠崎書林, 1976
- 『東大寺』西山厚監修 平凡社, 2010.10
- 『樺美智子聖少女伝説』 江刺昭子著 文藝春秋, 2010.5
- 『書誌学入門 古典籍を見る・知る・読む』 堀川貴司著 勉誠出版 2010.03
- 『小説仕事人池波正太郎』 重金敦之著 朝日新聞出版 2009.12
- 『マグロをそだてる : 世界ではじめてクロマグロの完全養殖に成功!』 江川多喜雄文 ; 高橋和枝絵 ; 熊井英水監修 アリス館 2009
- 『新 13歳のハローワーク』 村上龍著 はまのゆか絵 幻冬舎 2010
- 『ん : 日本語最後の謎に挑む』 山口謡司著 新潮社 2010
- 「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」 岩崎夏海 ダイヤモンド社 2009
- 『切り紙 昆虫館:ハサミで作ろう!』 今森光彦作 童心社 2009
- 『笑う科学イグ・ノーベル賞』 志村幸雄著
- 『おりがみで作る季節のカブリモノ』 チャッピー岡本著
- 『永遠まで』 高橋睦郎著 思潮社 2009.7
- 『気持ちにそぐう言葉たち』 金田一秀穂著 清流出版 2009
- 『道は必ずどこかに続く(15歳の寺子屋)』 日野原重明著 講談社 2009
- 『藩政アーカイブズの研究: 近世における文書管理と保存』 国文学研究資料館編 岩田書院 2008
- 『日本沈没 第二部』 小松左京,谷甲州著 小学館 2006.8
- 『大名行列を解剖する : 江戸の人材派遣』 根岸茂夫著 吉川弘文館 2009.11
- 『名文で巡る阿修羅−天平の国宝仏−』 梅原猛ほか著 青草書房 2009.5
- 『宇宙で暮らす道具学』 松村秀一, 松本信二監修 ; 宇宙建築研究会編著 雲母書房 2009
- 『地震イツモノート: 阪神・淡路大震災の被災者167人にきいたキモチの防災マニュアル 』 地震イツモプロジェクト編著 木楽舎 2007
- 『47都道府県・伝統食百科』 成瀬宇平著 丸善 2009
- 『はじめまして奈良』 井岡美保, 小我野明子著 ピエ・ブックス 2009
- 『わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて−児童労働者とよばれる2億1800万人の子どもたち−』 岩附由香、白木朋子、水寄僚子著 合同出版 2007
- 『情熱仕事力』 リコ・ドゥブランク著 オータパブリケイションズ 2009
- 『ビジネスマンのための「読書力」養成講座 : 小宮流頭をよくする読書法』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2008.9
- 『広報の仕掛人たち : 21のPRサクセスストーリー』 日本パブリックリレーションズ協会編(宣伝会議 2006.12)
- 『自治体マーケティング戦略』 淡路富男著(学陽書房 2009.3)
『「眠り」をめぐるミステリー:睡眠の不思議から脳を読み解く(NHK出版新書372)』 櫻井武著 NHK出版 2012.2
皆さんはご自分の睡眠に満足されていますか?
睡眠時間が1日平均6〜8時間だとすると、人生のうちの4分の1から3分の1を占めていることになりますが、質・量ともに満足しているという方
は少ないのではないでしょうか。日本では、5人に1人が睡眠になんらかの問題を抱えているそうです。
本書では、まったく眠ることができなくなる遺伝病や、眠りながら殺人を犯した夢遊病の事例など、眠りにかかわる不思議な生理現象や症例を通し、
最新の脳科学の観点から我々が生きる上で不可欠な“睡眠”の謎を解き明かしていきます。
テスト前に一夜漬けというのはよく聞きますが、実は、睡眠中に「記憶が強化される」ことがさまざまな実験で確かめられているそうです。「眠り」
は休んでいる、という消極的な状態ではなく、積極的に脳のメンテナンスと情報処理を行う能動的な過程だというのです。その働きはパソコンのデフラ
グメンテーション操作に例えられています。
他にも、ネガティブな感情に対する記憶は睡眠不足でもそれほど影響は受けないけれど、睡眠をとると、ポジティブな感情に関する記憶が、ネガティ
ブな記憶に比べてよく残るという研究もあるそうです。つまり、よく寝ないと嫌な思い出ばかりが残り、楽しい思い出や、学習効果があまり残らないと
いうことなのです。
多忙な現代人にとって、ついついおろそかになりがちな睡眠ですが、ぜひ本書を読んで睡眠の大切さを再認識してください。
『すごい夜空の見つけかた』 林完次写真・文 草思社 2011.7
最近、空を見上げましたか?
夕暮れの空に一番星を見つけると幸せな気分になります。ひと際明るく見えるのは、「宵の明星」と呼ばれる金星。星の明るさは「1等星」というよ
うに数字が少ないほど明るくなる「等級」で表しますが、金星は一番明るい時で、−4.7等にもなるそうです。これは、金星が地球と太陽に近いこと
と、厚い大気に覆われていて、この大気が太陽の光を効率よく反射しているからだそうです。今月も−4.5等〜−4.0等の明るさで見えています。
東の空に昇ったばかりの赤く見える満月は、イギリスでは「ストロベリームーン」、ひと月のうちの2度目の満月は「ブルームーン」、三日月でもほ
かの部分がうっすらと見えていて丸いのは、太陽の光を地球が反射させて月を照らす「アースシャイン」。そんな素敵な「すごい夜空」を、美しい写真
とともに楽しめるのがこの本です。夜空だけでなく、夕暮れに雲間から太陽の光が地上に降り注いでいるように見える「天使のはしご」や、日食のページもあります。
今月、5月21日の朝(6時17分ごろから)、奈良で282年ぶりの金環日食が見られます。久しぶりに空を見上げてみませんか。
※5月2日から30日に図書展示「金環日食を2倍たのしむ!」を開催しています。日食の観測方法もご紹介しています。
http://eventinformation.blog116.fc2.com/blog-entry-792.html
『凸版・活版印刷でいくのだ!』(デザインのひきだし : プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・ 加工の実践情報紙10) グラフィック社編集部編 グラフィック社 2010.6
紙に型押しされたポコポコへこんだ文字、インクの濃淡も味わい深く、見るたび、触れるたび、うっとりしてしまう・・・凸版印刷されたものに対す
る私の思いです。
チラシや書籍など通常の印刷物の大半は、「オフセット印刷」といって、平たい版を使用した印刷ですが、繊細な印刷表現もできるうえに版のコスト
も安く、印刷スピードも早いそうです。かたや、今や探さないと見つからない凸版・活版印刷は、活字や凸部分にインクをつけて刷るため、インキがか
すれたりへこんだ感じになりますが、素朴な風合いをかもし出したり、ときに鮮明で強い印象を与えます。
本書では、凸版・活版印刷の職人さんやデザインのプロが、伝統を守り、さらに新たな魅力を引き出さんとチャレンジしていく様子を、豊富なカラー
写真で紹介しています。また表紙の活版仕様はもちろん、実験的とも言える印刷物の付録も楽しい仕上がりになっています。『デザインのひきだし』は
今も刊行が続いていますが、印刷や紙に関する多様な技やアイデアが見本市のように紹介され、マニア必見のシリーズです。
『ルーヴル美術館収蔵絵画のすべて』 エリック・レッシング写真 ヴァンサン・ポマレッド監修・解説 アーニャ・グレーベ絵画解説 藤村奈緒美 [ほか訳] ディスカヴァー・トゥエンティワン 2011.12
本書は、誰もが憧れる美術館のひとつであるルーヴル美術館が世界に誇る絵画コレクション3000点を中核となる4つのコレクション「イタリア絵画」「北方絵画」「スペイン絵画」「フランス絵画」に分けて紹介しています。
その中には、レオナルド・ダ・ヴィンチの≪モナ・リザ≫、ウジェーヌ・ドラクロワの≪民衆を導く自由の女神≫など有名な絵画もあります。
本書に掲載されているすべての作品には、画家の生年順に配列され、タイトル、制作年、寸法、画材、展示場所、ルーヴルの目録番号が記載されています。
400を超える作品には、ルーヴル美術館の絵画部門ゼネラル・キュレーターのヴァンサン・ポマレッドとバンベルグ大学教授のアーニャ・グレーベが
作品そのものの説明、主題、来歴や絵画史における重要性、特にルーヴル美術館のコレクションにとっての重要性を解説しています。図版の写真
は、世界屈指の美術写真家エリック・レッシングによるものです。付録のDVD-ROM(英語版)には、全作品が収録されています。
本書は、ルーヴル美術館公認による国際プロジェクトにより実現できた一冊です。
『名将の言葉:武人の生き様と美学: 90 quotes』 本郷和人著 パイインターナショナル 2011.6
本書は、「勝つための奥義」「人を動かす法」「己を鼓舞するとき」「信
念己の信じる道」の4章からなる、そのタイトルどおり名将と呼ばれる歴史
的人物の言葉を紹介した本です。
見開きの片面に、それぞれの言葉についての簡単なエピソードとその人物
のプロフィールが、もう片面には、愛好した品々の写真などが掲載されてい
ます。単に名将の言葉を紹介するだけではなく、様々な角度からのアプロー
チで、名将の生きた時代背景やその言葉が発せられた状況をあわせて知るこ
とができ、その人物や言葉の意味をさらに深く理解できるような気がします。
今は、武士の世の中でありませんが、信念はいつの世にも通じるものがあ
るように思います。なかでも、私が気になったのは、奈良に縁の深い剣術家
・柳生宗厳の五男、柳生宗矩の言葉で、「われ人に勝つ道を知らず われに
勝つ道を知る」です。とてもストレートですが、とても深い言葉だと思いま
す。簡単なことではありません。
他にもたくさん気になる言葉があり、その人物についてさらに深く知りた
いと思うようになりました。また、この先のいろいろなシーンで、苦しいこ
と、辛いこと、悲しいこと、心が折れそうになったりした時、心の引き出し
からこんな言葉が出てきたら、きっと勇気づけられ、励まされ、癒されるの
ではないでしょうか。それは、過去に読んだ本の中のフレーズでも、ある人
が話した一言でもいいのです。私がつまずく石ころは小さいけれど、日本に
起きた災害や事件の被害者にはとてつもない大きな山だったりします。そん
な時、その一文や一言に助けられることも多いのではないでしょうか。心の
引き出しは沢山ある方がいいと思います。
『宇宙のはかり方(ビジュアル雑学図鑑1)』 縣秀彦監修 グラフィック社 2011.8
昨年当館で帰還カプセルの特別展示があり、現在映画も公開中の小惑星探
査機「はやぶさ」。その目的地であった地球から3億キロ彼方にある小惑星
「イトカワ」と、間もなく開業予定の世界一高い自立式電波塔となる東京ス
カイツリー、どちらが大きいと思いますか。そんな意外な組み合わせの疑問
に答えてくれるのが本書です。
その他にも、地球がテニスボールサイズだとしたら、太陽やほかの惑星は
何のボール?ブラックホールの質量は、奈良の大仏の何体分?などなど。大
きさ、距離、質量、高さ、温度、時間など、果てしなく広がる「宇宙のスケ
ール」を53のユニークな方法で比較しています。
天体や光や音などといった宇宙に関わるものが実際どれくらいのものなの
か、壮大すぎてなかなか実感できない部分が、縮尺したり、置き換えたり、
身近なものと比較することでイメージしやすくなっています。上記の疑問の
ひとつにでも興味を持った方は、ぜひご自身で本書を手に取ってみてくださ
い。オールカラーで見開きがひとつのテーマになっていますので、パラパラ
めくっていくだけで、新たな発見があることでしょう。今まで常識だと思っ
ていたことが、覆されるかもしれません。
『本へのとびら : 岩波少年文庫を語る』 宮崎 駿著 岩波新書:新赤版 1332
岩波少年文庫は1950年に創刊された岩波書店初めての児童書であり、
今までに発行されたタイトル数が400を超えるシリーズです。親子3代に
わたって親しんでこられた方も多いのではないでしょうか。
そんな岩波少年文庫に対する宮崎駿氏の「愛」を感じるのが本著です。
宮崎アニメ作品の中にも「ゲド戦記」や「借りぐらしのアリエッティ」な
ど岩波少年文庫の作品がもとになっている作品があり、宮崎監督は本著の中
で、岩波少年文庫から受けた影響の大きさについて語っています。
また、昨年の東日本大震災を境にして、読書環境や読書に対する考え方の
変化、そして、自身の作品制作への取り組み姿勢の変化などについても語ら
れています。
この作品を読むことで、宮崎アニメの違った一面を発見することができる
と思います。
また、この作品のなかで宮崎監督が薦める作品を読んでみるのも良いです
が、その他の作品を読んで、自分自身のお薦め岩波少年文庫を見つけてみる
というのもいいのではないでしょうか。
『フェルメールの食卓:暮らしとレシピ』 林綾野著 講談社 2011.7
オランダ絵画の巨匠レンブラントと並び、高い人気を誇るフェルメール。
43歳の若さでその生涯を閉じたフェルメールの作品はわずかに36点しか
残されていませんが、本書の表紙ともなっている「牛乳を注ぐ女」、青いタ
ーバンと大きな真珠の耳飾りを身に付けた少女が印象的な「真珠の耳飾りの
少女」などはメディアでもよく取り上げられ、記憶に残っている人も多いの
ではないでしょうか。
本書ではそれらの作品が紹介されるとともに、登場するモチーフにもスポ
ットが当てられており、彼の生きた17世紀のオランダの人々の暮らしの一
端を垣間見ることができます。
窓辺に立ち手紙を読む女性や、テーブルで手紙を書く女主人など、手紙の
モチーフは6点の作品に描かれ、当時のオランダがヨーロッパのなかでも識
字率の高い国であったことや、郵便制度が発展し手紙文化が開花したことを
うかがい知ることができます。
タペストリーや装飾をほどこした椅子などの室内インテリア、女性モデル
が身につけている衣服も当時の流行を伝えてくれます。
さらに本書後半では、17世紀に出版された食の指南書を参考に当時の食
卓を再現したレシピ、また、現代のオランダ料理のレシピも紹介されていま
す。
フェルメールの作品を楽しみつつ、オランダの歴史や文化をも味わうこと
のできる一冊です。
『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』 工藤美代子著 メディアファクトリー 2011.5
寒い季節になんですが、お化けを見たことがありますか?
ご自身にはなくても、お知り合いの中には一人ぐらい見た人がいらっしゃ
るのではないでしょうか。
ちなみに私は、金縛りの最中にお化けらしきものを見たことが何度かあり
ます。とは言うものの、それは夢か現かよく分からない程度のもので、まあ
おそらくは夢だったのだろうと思っています。
さて、今回ご紹介する図書は、著者が実際に遭遇した不思議体験を綴った
エッセイです。
怪談本はたくさんありますが、本書が一味違うのは、著者が「嘘を書かな
いこと」「盗作をしないこと」を身上としているノンフィクション作家とい
うことでしょう。
ネタバレするので内容は詳しく書きませんけれど、単なる怪異遭遇譚には
とどまらない不思議現象に驚かされます。「すべて真実で、一切脚色は加え
ていない」とのことですが、そうは言われましても・・・と思わざるをえな
いエピソードの数々。面白いことに、体験している最中には相手があちら側
の人とは分からず、後になってから気付くそうです。それほどハッキリ見え
て(聞こえて)いるのでしょうね。
図書館は本や情報だけでなく、人との出会いの場でもあるのですが、アメ
リカのウィラード図書館(http://www.willard.lib.in.us/)のように、当
館にもあちら側の方々がご来館くださっているのでしょうか。そういえば、
映画『ベルリン・天使の詩』では、図書館に天使たちが集っていましたね。
自分には霊感がないと断言する人、多くないですか?しかし著者の想像で
は、現代社会に生きている人々の八割以上が、なんらかの形で彼らと出会っ
た体験があるそうですよ。
『だれか来ている 小さな声の美術論』 杉本秀太郎著 青草書房 2011.7
本書は古典からフランス文学まで、幅広い知識を持つ杉本秀太郎の美術論を中心とするエッセイ集である。上村松園が描く婦人像のこと、小野蘭山の本草学など京都にゆかりのある著者ならではの文章、ゴーギャンのブルターニュで描かれた風景画『乾草』の謎解きは、「北斎漫画」からコロー、ドガ、さらに「涅槃図」へと移っていく。著者の大胆な推理が、美術論というより物語を読むようで面白い。
ブックジャケットになっている『憐みの聖母』の絵は、ペストの流行や相次ぐ内戦の中で、密かにマリア様の守護を願ったフィレンツェの人達が、小さな教会に奉納した絵馬のようなものだそうで、今も婚礼の日に新婦が白百合の花を教会の柵に結ぶという。祈ることや信じること、幸せや苦しみとは何かと問いかけてくるようである。
東日本大震災の惨状に直面して「わが名をかぶせた本など出して恥ずかしくないのか」と自問しながらも、自分に呼びかけてくるものへの気配を感じそれに丁寧に答えられた本である。
『ユダヤ人の起源 : 歴史はどのように創作されたのか』 シュロモー・サンド著/佐々木康之, 木村高子訳 WAVE出版 2010.3
本書は旧約聖書の時代から現代に至るユダヤの通史です。著者はユダヤ教
が一般に思われているような閉じた宗教ではなく、イスラム教やキリスト教
ほどではないにせよ伝播力を持ち、周辺地域に広がった事例を挙げています。
その事例の一つとしてカスピ海沿いに7〜10世紀に存在したユダヤ教国家
ハザール王国をあげています。そしてこの国の民が、東欧系のユダヤ人(ア
シュケナージ)の源流になった可能性を示唆しています。つまり著者は必ず
しもユダヤ人の血統は連続していないといった立場に立っています。
また、こうした考えはイスラエル建国当初までは実証的な研究として発表
されていたにもかかわらず、イスラエルが版図を拡大していくにつれてタブ
ーとなっていったことを指摘しています。そういった事情のため本来なら学
際的な研究チームを組んで取り組んでしかるべきこの課題に、著者はイスラ
エルの大学で、一人で当たらざるを得なかった、としています。
ふつう、ユダヤ人か否かは宗教によって区分されるとされ、そういった理
解に立つ限り、現代のユダヤ人と聖書の時代のユダヤ人との血統的連続は必
要ありません。しかし、イスラエルが、現在の地に存在する正統性を強調す
るためにパレスチナ人に対する先住性を主張するとすれば話は異なってきま
す。イスラエルとパレスチナの関係は混迷を続けていますが、イスラエルの
政策がこうした神話の上に成り立っていることを見逃すことはできません。
また一方で、ハザール王国とアシュケナージを結びつける考えは、少しネッ
ト検索をするといまだに根強いユダヤ陰謀論の文脈の中で語られていること
が多いのにも少々驚かされます。
こうしたデリケートな問題に直結する個々の論証の当否には判断がつきか
ねるところがありますが、民族と国家の関係を考えるうえで興味深い一冊で
あることは間違いありません。
『利他のすすめ チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵』 大山泰弘(著) WAVE出版 2011.4
著者は、社員の7割を知的障害者が占めながら、業界トップシェアを維持
する会社に育て上げた。しかし、当初は父を助けるために自分の夢をあきら
めざるをえなかったという。自分にとって「逆境」そのものだったが、転機
は二人の知的障害をもつ少女を雇用したときからであった。あるとき「施設
に帰すよ」というと泣いて嫌がった。施設にいれば楽に過ごせるはずなのに、
どうしてつらい思いをしてまで働こうとするのだろうか、不思議でならなか
った。そこから「人はなぜ働くのか」「人の幸せとは何か」といった根本的
な問に向き合うようになった。その答えを教えてくれたのは知的障害者で、
彼らに学んだ知恵をまとめたものである。
本書は、「何千年たっても変わらないこと」「誰かの役に立ってこそ幸せ」
「『利他の心』が人生を拓く」「『幸せな自分』をつくる」の4章からなり、
「人の役に立つことが自分の幸せ」であり、「利他」が自分のためになるこ
とを知ることが大切であるという。これは、文部科学省の資料にある「生き
る力」の根っこになるもので、子供のうちから、できるだけたくさん「人の
役に立つ経験」をさせて、その喜びを追い求めるこころを育ててあげる事が、
力強く生きていく礎になっていく。
知的障害者に共通する思いは、「人の役に立ちたい、人にほめられたい、
人に必要とされたい」という切実な思いで、この幸せを求めて働くなかで個
性も発見され、育っていくものだという。
東日本大震災という未曾有の災害にあい、復興に向けて力を合わせていか
なければならない今こそ、「利他の心」を大切にしたいものである。
『ビジネスで一番、大切なこと』 ヤンミ・ムン(著) 北川知子(訳) ダイヤモンド社 2010
「企業の目的は顧客の創造である」は、P.F.ドラッカーの言葉で、今
でも名言として良く使われています。この企業の目的を実践するのがマーケ
ティングとイノベーションですが、今回ご紹介する一冊は、現代のマーケテ
ィングを分かり易くしたものです。
著者のヤンミ・ムン教授は、ハーバード・ビジネス・スクールで10年以
上に渡りマーケティングを教えています。彼女は、これまで経営学を論じた
授業を否定します。そして、二人の子どもを持つ母が買い物する目線から、
マーケティングを読み解きます。この消費者目線こそ、彼女の授業が同スク
ールで最も人間味溢れると評価され、本書が重版を続けるている理由といえ
るでしょう。
内容は、「私たちが陥っている『競争』の正体」、「私たちの目を奪うア
イデア・ブランド」、「私たちは、人間らしさに立ち返る」の三部で構成さ
れています。近年のビジネス社会では、差別化が声高に叫ばれています。し
かし過度な差別化は、消費者の心を履き違え、うんざりさせ、遂に消費者離
れを引き起こすと述べています。この主張は、本書と同じく世界中で読まれ
た同スクールのクリステンセン教授『イノベーションのジレンマ』にも見え、
そこに現代経営学の潮流が窺えます。
本書は、差別化は手段ではなく考え方である、そして何よりも取り組みだ
と結び、「ええ、私たちはわかっていますとも」からの脱却が、新たな消費
者を生むと提起します。私たちの「わかっている」は、実は「わかったつも
りでいる」に過ぎないことを、親身に気づかせてくれる一冊です。
『けんちく体操』 チーム建築体操 エクスナレッジ 2011.4
とにかくタイトルが気になりました。「けんちく体操」って…?
表紙の写真は、東京タワーの前で真面目な顔をした大人3人が、頭の上
にすっと手を挙げ、両手指先を合わせてとんがりのポーズをとっているも
の。足元は肩幅以上に広げて…。そう!東京タワーのまねをしているので
す。中を開くと、京都タワーもありました。上部の展望室や下部の受け皿
のような部分とその下のビル部分すべてを5人で表現しています。太陽の
塔は二人であの上と真ん中の顔を表現しているのがなんとも見もの。
建築体操とは、建築物を模写する体操のことで、外観だけでなく、構造
や用途、個人的に抱いた第一印象などを身体で表現するものだそうです。
身体能力以上に、建築を見る、知る、愛する情熱が問われる体操とのこと。
発案は東京都江戸東京博物館の研究員がとてもまじめに行ったもので、各
地でワークショップが開かれているそうです。
ギザのピラミッドや奈良の東大寺大仏殿など全部で73のけんちく体操
の紹介のなかには一人でできるものから七人での大作、子どもと一緒に表
現するものもあり、家族や仲間でちょっと試してみたくなります。
『知ってる?正倉院−今なおかがやく宝物たち−』 読売新聞社編 ミネルヴァ書房 2011.6
錦秋の奈良の一押しといえば、やはり正倉院展。今年は63回目を迎え、10月29日(土)から11月14日(月)まで、奈良市の奈良国立博物館で開催されます。
今回は「蘭奢待(らんじゃたい)」、「金銀鈿荘唐太刀(きんぎんでんそうのからたち)」、「紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」、「佐波理合子(さはりのごうす)」など
62件(初出展17件)が公開されるそうです。
正倉院の名前は知っているけれど、どんな目的で創られ、何を納めているのか。また、納められている宝物や正倉院の歴史について、コンパクトにまとまっている
本はないか。そんな方にお奨めするのが『知ってる?正倉院』です。
この本は、小学校高学年向きに編まれたもので、編者は読売新聞社、奈良国立博物館が監修しています。小学生向けといっても侮るなかれ。執筆陣は東大寺長老の
森本公誠氏、元奈良国立文化財研究所長の鈴木嘉吉氏、奈良大学文学部教授の東野治之氏、マンガ家の里中満智子氏などそうそうたる人たちが、正倉院の宝物や歴史、聖武天皇と
光明皇后、シルクロードや遣唐使のことまで、わかりやすく解説しコメントを載せています。
ほかにも、作家、漆芸家、雅楽師、書家、元正倉院事務所職員など、ゆかりのある人たちが正倉院の世界や魅力を紹介しています。字が大きくて、ルビ付きという
のもうれしいところです。でもちょっと物足りないとい方は、巻末の主な参考文献で知識を深めてみてください。
ところで、正倉院展は、敗戦で疲弊した国民を元気づけ、日本文化のすばらしさを再認識してもらいたいという声に応えるため、1946年(昭和21年)に「正倉院特別展観」
として第1回が開催され、20日間で約15万人が訪れたそうです。当館では正倉院展の目録を第1回から第62回まで一部複製のものを含め、全部の目録が揃っていますので、
正倉院展の変遷を目録から確かめることができます。正倉院や宝物に関する書籍とあわせて、ぜひ、一度ご覧ください。
『復興のための暮らしの手引き』 第一東京弁護士会東日本大震災対策本部 「ここから/KOKO-KARA編集委員会」 2011
9月に紀伊半島を襲った台風12号によって、和歌山県をはじめ奈良県でも大きな被害を受けました。既におこってしまっている災害に対して、また これから来るであろう災害に対しても、生活をするために、そして心の安寧を取り戻すために、できる限りのことをしたいと多くの方が思われているのではないでしょうか。 この冊子は、東日本大震災で被災された方に向けた、復興のための手引き書です。各種制度や手続きとその受付・相談窓口が、電話番号とともに記載されています。 中には東北地方にのみ該当する連絡先もありますが、問い合わせ内容がどこの管轄かがわかるので、知っておくと参考になります。他に、家族写真の復元の仕方を教えてくれる問い合わせ先も掲載されています。 内容は、インターネットからも閲覧・ダウンロードができ、必要に応じて情報を更新されるそうです。
『池澤夏樹の世界文学リミックス』 池澤夏樹著 河出書房新社 2011
「社会に大きな変動があった時、その中に生きる個人の運命が大きく変わる時、それを記録して長い目で見た意味づけを行うのはやはり文学である。」と、
まえがきで述べられている池澤夏樹さんが個人編集で作られた世界文学全集は、随分と話題になりました。そこには欧米だけでなく、アジアやアフリカからも現代を映し出す
作品が収められています。その全集の刊行に合わせて連載されていたコラムをまとめられたのが、『池澤夏樹の世界文学リミックス』(連載全部をまとめた完全版もあります)です。
全集にある作品だけでなく、そこからつながる作品も軽妙な語り口で紹介されています。まだまだ読んでいない作品がたくさんあることを実感し、わくわくするとともに、
読んだことがあるはずの作品をも「なるほど…そうなんだ」ともう一度手に取ってみたくなります。知らなかった時代背景を知り、気づかなかった心情をくみ取ることで、
また違った視点からより深く味わうことができそうです。カラフルな世界文学全集をひとつひとつ読み込む楽しみへとつながる一冊です。
『小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡:挑戦と復活の1592日:Hayabusa』 的川泰宣著 PHP研究所 2010.10
プロジェクトのリーダーが語る7年間の軌跡! 60億キロの旅を終えた
「はやぶさ」のカプセル収容までの挑戦を紹介しています。
本書は、2003年5月の打ち上げから2010年6月のカプセル収容までの全容が明かされています。その7年の歳月の間には、姿勢制御機能が故
障したり、4つのエンジンがすべて不能になったり、通信が途絶して行方不明になっていたことなどがあり、それらのエピソードが紹介されています。
また、本書中に出てくる小惑星「イトカワ」は、日本のロケット開発の父である故糸川英夫博士にちなんで「ITOKAWA」(イトカワ)と名付け
られました。ちなみに「はやぶさ」が撮影した「イトカワ」は、横長でとってもユーモラスな形をしており、動物のラッコのようです。世界で初めて
「イトカワ」より持ち帰った岩石質の微粒子が米科学雑誌「サイエンス」の2011年8月26日号の表紙を飾りました。また、この号には、「はやぶさ」に関連した論文6編が掲載されています。
最後に「はやぶさ2」計画が進められており、2015年までに打ち上げられる予定だそうです。
『緑のアイデア』 石原和幸著 WAVE出版 2010.12
2011年の夏、3月に起こった未曾有の大震災、津波被害の傷跡も癒えないまま、不安定な天気とうだる暑さに心身ともに重苦しい日々を送っていた時、
出合ったのがこの本です。
著者の石原和幸氏は、イギリスのチェルシーフラワーショーで3年連続金賞を受賞するなど、世界でも数多くの賞を受賞され、コケを使った庭で独自の世
界観を確立し「モスマン」(コケ男)の愛称で親しまれているランドスケープアーティストです。
石原氏の作品は、ジャングルのようにいろんな木や草が生い茂り、緑の中に包まれて木や草と共に息をしている、まさに緑と共存しているかのような気持
ちにさせてくれます。今回紹介されている氏が52歳でつくったという秘密基地『風花』の写真は、見ているだけで緑の匂いと清々しい風が吹いてくる気がします。
本書には、小さな作品も数々紹介されています。玄関やキッチン、居間の飾り棚など少しのスペースにも、季節の寄せ植えができます。卵の殻に植えた観
葉植物や、5分でできるコケ玉、机の上の箱庭などアイディアもいっぱいです。
疲れた心を癒してくれる緑の優しさとパワーに、下を向いていた瞳も空を見上げ、結んだ唇も緩み、優しい心を取り戻せそうな1冊です。
『宇宙飛行士の育て方』 林公代著 日本経済新聞出版社 2010.10
先日、最後のスペースシャトルが打ち上げられましたが、宇宙で活躍する
「宇宙飛行士」という職業に憧れを抱いたことのある人は多いかと思います。
「職業は宇宙飛行士」と聞くと、どんなスーパーマンなのだろうかと想像してしまいます。しかし、本著のなかで若田光一宇宙飛行士は「宇宙飛行士
は大きなチームの一員で会社で言えば現場を仕切る『課長』のようなもの」だと語っています。もちろん専門知識や特殊技量など必要とされる能力は多
岐にわたりますが、「状況認識力」「コミュニケーション力」「リーダーシップ・フォロワーシップ」など社会人として仕事をするときに求められる能力
が重要となってくるそうです。実際に過去に選ばれた宇宙飛行士たちの特徴は「体が頑強で、コミュニケーション能力が高い人」ということです。そし
て、先が見えなくとも悲観せず、仕事を成功させようという「意志の強さ」未知なるものを見たいという「好奇心」、自分の限界に挑戦するとういう「
チャレンジ精神」を持ち続けられる人が宇宙飛行士として活躍しているのです。
本著を読むと宇宙飛行士が決して一般人とかけ離れたスーパーマンではなく、目標にむかって日々努力を重ねる人たちであるということがわかります。
『地震の日本史 : 大地は何を語るのか(中公新書1922)』 寒川旭著 中央公論新社 2011.5
本書は、2007年に刊行後長らく絶版であったが、3月の東日本大震災を機に再出版されもので、平安時代初期9世紀の地震活動と現代の地震に共通す
る「地震連鎖」のことが増補版では加筆された。著者は「地震考古学」という分野を開拓した人で、発掘調査による地質研究と古文書などの記録から地震の
痕跡を読みとり、縄文時代から現代にいたる主な地震の地震災害を具体的に紹介している。
例えば、天理市赤土山古墳は2001年の発掘調査で、古墳の墳丘にあるはずの埴輪が、低い位置で見つかった。しかし、その後の調査で地滑り痕が発見
されて、埴輪群が滑り落ちたということが判明したという。また、明日香の酒船石(さかふねいし)遺跡の丘陵斜面調査では、日本書紀に斉明天皇が築いた
と記されている石垣の一部が崩れているのが発見されたが、石垣を覆う地層の年代から7世紀末ごろに地震が発生したことがわかった。発掘調査は地震と関
係なく行われているが、古墳などが多く存在する近畿地方は、地震の歴史も豊富に見ることができ興味深い。なお
『史跡赤土山古墳』(天理市教育委員会
2004.3刊)に、著者の論文が図版とともに掲載されており、「古墳が地震で変形した事例を検討することは、古墳本来の形状を探るうえでも重要であ
り、地震の被害を軽減する研究の貴重な資料となる」と述べている。
南海トラフ(断層)のプレートから発生する地震の規則性がわかり、阪神・淡路大震災以後、太平洋沿岸のプレートが影響する全域で地震の活動期に入っ
ている。今世紀の中ごろには巨大地震が発生するのではないかとの予想もあるようだが、東日本大震災から4ヵ月たった今も地震による悲劇や原発の事故は
他人事とは思えず、私たちがこの国で暮らすためには地震との共存を考えていかなければならない。著者も「今後地震に対する備えの充実」を指摘されてお
り、そのためには過去の地震から学ぶことも大切だと痛感させられる本である。
「打ち水大作戦のデザイン」 打ち水大作戦本部 編 インプログレス 2009
暑い夏の午後には表に出て水を撒く。かつては日本の夏の風物詩であった打
ち水も、今ではほとんど見かけることがありません。
すっかり過去の習慣となってしまった感のある打ち水ですが、2003年夏、「いっせいに打ち水をして真夏の気温を2度下げよう!」を合言葉に、決まっ
た日時に打ち水をする「打ち水大作戦」なるものがスタートしました。これは、ヒートアイランド現象に対する打ち水の効果を検証しようという社会実験でも
ありました。
いくつかのNPO法人が構成する「本部」により運営されるこの打ち水大作戦、ロゴマークがデザインされ、柄杓や桶などのツール、さらには「打ち水音
頭」が製作されるなど、エンターテイメント要素も満載です。当日は雨水やお風呂の残り湯などの二次利用水でいっせいに打ち水をするだけ。誰もが手軽に
そして楽しく参加することができます。
2003年に東京で34万人が参加して行われたのを皮切りに、翌年には名古屋や大阪のみならず、ストックホルムでも“UCHIMIZU”が行われま
した。以降、日本の各地、海外で毎年700万人以上を集める一大環境イベントとなっています。
日本の夏の暑さは、近年では猛暑、酷暑といった言葉で表現される厳しいものになっています。本書で紹介される打ち水をとおして、ヒートアイランド現
象、ゲリラ豪雨をはじめとする異常気象など、地球環境について考えるキッカケができるのではないかと思います。
「木村秋則と自然栽培の世界 : 無肥料・無農薬でここまでできる」 木村秋則責任編集 日本経済新聞出版社 2010.6
東日本大震災から3か月が過ぎ、復興に向けた様々な取り組みが進められていま
す。当館でも、義援金募集の案内や、避難されている方への利用者カード発行などの対応を行っています。
「たとえ明日世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える」とはマルティン・ルターの言葉ですが、以前このコーナーでご紹介したシェル・シルヴァスタ
インの『おおきな木』をはじめ多くの作品にリンゴの木が登場するように、ヨーロッパでは古くから、庭にリンゴの木を植える習慣があるそうです。
日本のリンゴ生産地としては青森県や長野県が有名ですが、農林水産省の『平成20年特産果樹生産動態等調査(2011年1月13日公表)』によりますと、リ
ンゴを1ヘクタール以上栽培している地域は、北海道から九州まで35都道府県あるそうです。奈良県もその一つで、県内のホームセンターや園芸店では、一般家庭
向けに数種類のリンゴの苗が売られています。
さて、今回ご紹介する図書は、無肥料・無農薬栽培を実践するリンゴ農家の木村秋則氏が提唱する「自然栽培」の手引書です。同氏によれば自然栽培のノウハウは
農作物全般への応用が可能とのことで、自然栽培と有機栽培との違いや土の重要性、なぜ畝を作るのかなどについてわかりやすく書かれているほか、農学者による科学
的な考察もあります。また、自然栽培に取り組んでいる米・野菜・茶農家の事例も多く紹介されており、巻末にはお米と野菜の自然栽培マニュアルも掲載されています。
家庭菜園を始める人が増えていると聞きます。就農希望者も含めて、とても参考になる一冊です。
「キムチの文化史 朝鮮半島のキムチ・日本のキムチ」 佐々木道雄著 福村出版 2009.9
漬けものや辛いものが好きな身としては、スーパーでキムチを手にする機会がよくあります。
キムチというと、韓国というイメージがありますが、乳酸発酵が進み少しずつ酸っぱくなっていく、本場の製法によるものは必ずしもスーパーに多くありません。
いわば、日本化された形で定着していると言えるでしょう。
こういった状況が生まれるようになった歴史を解き明かしてくれるのが本書です。
本書は、まず朝鮮半島における漬物の発達を、日本の場合と対比させつつ述べていきます。朝鮮半島で現在のようなキムチが庶民に普及するのは19世紀末と意外と
新しいものの、地域ごとに独自の発達を遂げたといいます。傾向としては、温暖な南方ほど、腐敗を防ぐために多量の塩が使われ、乳酸発酵自体の味は弱まるといい
ます。その点から考えると、より温暖で発酵の管理が難しかった日本では、本場のような製法が普及しにくかったのもゆえなしとしません。
もちろん、日本の漬けものは北へ行くほど塩辛くなるように、気候的なものだけが現在の「日本のキムチ」を左右したのではありません。本書では、明治以降出版
物がキムチをどう取り上げたかを丁寧に追うなかで、日本における普及や、朝鮮半島とは異なる漬けもの漬け方が与えた影響を跡付けています。
お酒も好きな身としては、全く歴史は異なりますが奈良漬についてもこんな研究が出てくればぜひ読んでみたいです。
「ハーバードの『世界を動かす授業』」 リチャード・ヴィートー 中條亮子著 徳間書店 2010
天文学的な赤字国債、長引く不況、少子高齢化による年金不安と、日本の将来は危惧されています。それにも関わらず、
為替市場は円高で推移する要因は何だろうと考える方は多いでしょう。この不思議を読み解くヒントとなるのが、今回ご紹介する一冊です。
本書は、ハーバード・ビジネス・スクールの必須科目であるBGIE(Business, Government, and the International Economy)を30年間に渡り教
え、2009年に同スクール優秀教官賞を受賞したリチャード・H・K・ヴィートー教授の授業を紹介したものです。BGIEは国際政治、経済、企業間の役割につ
いて論じるものであり、内容は世界各国の仕組みや戦略を事例分析したものです。
ここから、同スクールが世界の見方をどのように教えているかが窺えます。
授業ではアジアの高度成長、資源国など世界をいくつかの軌道に分けますが、最初に取り上げるのが、戦後の廃墟から高度経済成長を成し遂げ「日本ミラクル」と
称された日本です。また、巨大債務に悩む富裕国として、その後の日本を分析しており、日本の現状と今後の課題、世界全体における日本の位置付けが明らかとなり
ます。この中で経済不安にも関わらず、海外からの配当などで経常収支が黒字を保つため不思議な動きをする為替市場についても言及しています。
本書は、日本に「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」と讃えられた時代の綿密な戦略を学び直す必要があると提言し、この世界をより良い世界にする、それが私た
ちに課せられた使命であると結んでいます。自分たちの将来を他人任せに考えず、世界の動きを学び直し、日々の出来ることを取り組むことから始めようと実感できます。
『陵墓と文化財の近代』 高木博志著 山川出版社 2010.1
陵墓は、歴代の皇室関係の墓所で、大日本帝国憲法の発布にあわせて決定されたものである。ここに治定の誤ったものを含む古代古墳群から近世の天皇陵まで「万世一
系」の「陵墓」として括られるようになった。
しかし、戦後の「日本史」が示す古代像と「凍結」された「陵墓体系」は齟齬をきたすことになった。たとえば、二十一世紀になって全長一九○メートルの前方後円墳
である今城塚古墳(現高槻市)から、六世紀の継体朝の大王の葬送儀礼を示す神殿・巫女・力士などの圧倒的な形象埴輪群が出土した。戦前の宮内省でも今城塚が継体天
皇の陵であるという議論はあったが、今城塚を真の継体天皇陵とし、陵墓参考地に指定すべきという答申は採用されることはなく、近年の発掘調査にいたった。
最近では、五社神古墳(神功皇后陵、奈良市山陵町)や佐紀陵山古墳(日葉酢媛命陵)など陵墓公開が進んできたが、「閉じた皇室(用)財産」という性格は変わらな
い。「陵墓」を御霊のやどる聖域とみなし、すべてに天皇家の祖先の墓としての性格を考慮すべきとの議論があるが、著者は違和感を覚えるという。とりわけ明確に皇室
の近い祖先とは性格が違い、すくなくとも六世紀初めの継体朝以前の「陵墓」となった巨大古墳群については、宮内庁が天皇家の祖先の墓としてのみ管理することなく、
文化財保護法のなかで「保護」「公開」「文化的活用」のありようを考えてはどうだろうかと提案する。
文化財とは違う「陵墓」の調査研究をどのように進めていくのか、また、考古学的知見を踏まえて「陵墓」の治定は変更すべきかどうかを考えさせてくれる一書である。
『時を貫く記録の保存−日本の公文書館と公文書管理法−』 全史料協近畿部会編 岩田書院 2011.3
今回ご紹介する図書は『時を貫く記録の保存−日本の公文書館と公文書管理法−』です。編者は全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)近畿部会で、岩
田書院のブックレットシリーズの1冊として今年の3月に刊行されました。本書は全史料協近畿部会の研究例会100回を記念して開催された公開シンポジウム「市
民社会の財産としての公文書・地域資料を考える」(2009年7月26日)の記録集で、国立公文書館長就任間もない高山正也氏が基調講演を行い、対談・パネル
ディスカッションや近畿部会の活動の歩みの報告が収載されています。奇しくもこの年の6月には国会で公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)が成立しまし
たので、時宜を得たシンポジウムとなり、文中からも熱気あふれる雰囲気が伝わってきます。
このシンポジウムは全史料協近畿部会が主催したものですが、事務局が図書情報館であったこともあり、個人的にもシンポジウムの準備やブックレットの編集に携
わった者として感慨深い図書でもあります。
昨今、MLA連携ということがよくいわれています。博物館(M)・図書館(L)・アーカイブズ(文書館)(A)のそれぞれが特徴的な機能や共通する機能をよ
り意識して結びつきを深めましょうということのようですが、今回ご紹介した図書を手始めとして、時を貫く記録(公文書や記録資料)の保存と活用に積極的に取組
んでいる文書館(アーカイブズ)の世界をのぞいてみてください。
『さくら百科』 永田洋 [ほか] 編 丸善 2010.1
やっと、佐保川の桜が咲いてくれました。昨年は開花が早かったため、今年はとても待ち遠しく感じられました。
やはり昔の日本人も桜の開花を待ち遠しく思っていたのか、『徒然草』に「立春より75日」と書かれるなど、江戸時代の様々な文献に、いつ頃咲くかを書かれたものが散見されるようです。ちなみに徒然草に書かれているものはその日数から、八重桜と推測できるそうです。
『さくら百科』にはこのほかにも、開花の仕組み、桜の種類など科学的なことから、桜の古木(一本桜)を探求したもの、桜と地域おこしの事例、桜が詠まれた詩歌、桜の文様、盆栽の仕立て方など、まさに「百科」のタイトル通り、桜に関することが多岐にわたって収められています。
「桜の楽しみ方」として、桜餅の作り方を関東風と関西風の2種類紹介するほか、桜の塩漬けを使った春らしい料理、生け花のデザイン例などの紹介までが載っているこの本を読むことで、今まで以上に桜を楽しめるようになるかもしれません。
『これからの防災・減災がわかる本』 岩波ジュニア新書603 河田惠昭 著 岩波書店 2008
3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震から、4日が経とうとしています。報道で流される被災地の様子は、想像を絶する状況で言葉が出てきません。
町全体が壊滅しているショッキングな光景や被災地がある一方で日常と変わらない地域が同じ日本に存在していることが、自分の中でうまくかみ合いません。
今、わたしたちができることは、正確な情報収集に努め冷静を保ち、できる範囲の被災地支援をし、またいつ来るかもしれない災害に備えることでしょうか。
この本では、過去の地震、津波、台風などの災害が紹介され、それらが起こったメカニズムを知り、教訓を今後の防災・減災に活かすことが書かれています。
「いつでも、どこでも、誰でも」災害に遭う可能性はあり、災害が起これば、まずは「自助」により自分や家族を守らなくてはなりません。また、「日ごろやっていない
ことはできない」という教訓から、家庭や地域でも、減災には日頃の備えや連携が必要であると説いています。
災害への恐怖を、対象の実態を把握することから、それに対応しようとする勇気に変えることができればと思います。
『巨大翼竜は飛べたのか:スケールと行動の動物学』 佐藤克文著 平凡社 2011.1
生物にデータロガーという記録装置を取り付け、空中や海中での行動を記録測定、解析して生態の研究を行うバイオロギングサイエンス(生物が記録する科学)の分野で
されている著者の本です。
本書では、ペンギンやウミガメなどにデータロガーを取り付け、これまで直接観察できなかった野生ペンギンの潜水行動メカニズムや、ウミガメがエネルギーを節約するため、
あえてゆっくり泳いでいることなどを、調査過程での面白いエピソードをまじえながら説明しています。
最後の第6章では、著者の研究チームがデータロガーで収集した海鳥の飛翔データ分析等をもとに、本書のタイトルになっている古代の巨大翼竜が飛べたのかどうかについて
検討しています。
本書は単なる研究成果の紹介だけではなく、データ取得のための苦労話など、調査現場の最前線での話が多く盛り込まれており、著者の研究に対する熱意や楽しさが
伝わってくる1冊です。
『元素図鑑:世界で一番美しい』 セオドア・グレイ著;武井摩利訳 創元社 2010.11
元素とは、こんなにも美しい物だったのかと改めて思った本です。昨年に発売されて以来、多く方がこの本の虜になったのではないでしょうか。
何をかくそう私もその中の一人です。
本書は、118の元素を見開き1ページで紹介しています。すべての元素の純元素と私たちが日常生活で見かける化合物や応用製品の代表例が
美しい写真で紹介されています。
各元素の解説では、基本データとともに、その元素の発見・性質・用途などについて、さまざまなエピソードなども取り入れており、元素の最新の
科学的データ集としてもご覧頂けます。巻末の元素周期表もとても美しいものとなっています。科学ファン必携の1冊です。是非とも、ご一読下さい。
『柑橘類(シトラス)の文化誌―歴史と人との関わり』 ピエール・ラスロー著 寺町朋子訳 ;東京 : 一灯舎, 2010.9
冬の風物詩と言えば、“こたつにみかん”、“お鍋に柚子・酢橘”です。初夏になると夏蜜柑が出まわり、運動会には青いミカン、紅茶にはレモン、
ジュースと言えばオレンジなど、柑橘類は四季を通して私たちの身近にあります。
オレンジと言えば外国産のイメージがありますが、実は、柑橘類は中国で初めて栽培され、ヨーロッパからさらに西、南北アメリカへと伝わったそうです。著者は
化学者ですので、学者的な要素も多く盛り込まれていますが、著者自身のエピソードを織り込みながら、柑橘類の起源や、栽培からその調理法、さらには色名から地名、
ギリシャ神話や絵画にまで話が及んでいます。また、章ごとに、諺や書物の一文が添えられていたり、本文の所々にレシピが記載されていたりと、驚くほどに幅広い話題が
満載の、柑橘類の文化誌となっています。因みに私が、一番興味を持ったのはオレンジジュースについて書かれた章です。ここでも単なる製造法だけでなく、
その歴史や成分のことなど、話は多くの枝葉にもふれながら進んでいきます。
読後は、普段何気なく食している蜜柑ひとつから、さまざまな想いが膨らみ広がっていくことと思います。
『おとな養成所』 槇村さとる著 ;東京 : 光文社, 2010.7
本書は、50代を機に「更年期」について書きたいと考えた人気漫画家 槇村さとるさんが、綺麗にゆっくり歳を重ねていくための、
コスメや美容、健康、恋愛など身近なテーマを取り上げ、「ビューティ講座」「ライフスタイル講座」「ヘルス&ダイエット講座」「心のデトックス講座」
という構成で綴られたエッセイ集です。
「ヘルス&ダイエット講座」では、突然やってきた更年期に最初は戸惑うものの「まっすぐに歩けない私」に興味を持ち、不安定な時期にこそ身体を
立て直すチャンスがあるのでは?と仮説を立て「更年期を有効に使う」というアイディアを提唱しています。戸惑いを好奇心にかえ、変わりゆく自分の体とどうつき
あっていくかを考え、ダイエットについては、あらゆる方法を試み理想の体重を求めるが、体重の増減に一喜一憂するのではなく、安心できる「健康」を保ちながら、
減量=美を手に入れることだと気付くなど、女性の身体のメンテナンスを、テーマごとに自身の失敗談をまじえ具体的な手立てがイラスト入りで書かれています。
『本が好き!』連載に加筆・修正して単行本化された、身も心も真の「おとな」になるためのエッセンスが詰まった女性におすすめの1冊です。
『風をつかまえた少年 : 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』 ウィリアム・カムクワンバ, ブライアン・ミーラー著 ; 田口俊樹訳 東京 : 文芸春秋, 2010.11
本著の主人公、ウィリアム・カムクワンバ君は世界の最貧国の一つでもあるアフリカ、マラウイの農村で生まれ育ちました。彼は、貧困
のため、授業料が払えなくなり中学校を退学せざるをえなくなります。それでも学びたい、本が読みたいと小学校の図書館に通い、独学で廃品を利用して風力発電をつくりあげました。
彼の生まれ育ったマラウイという国は、90%の地域で未だに電気が通っておらず、識字率は6割程度、呪術や魔術といったものが生活の中心に存在している国です。
そんな環境で育った彼ですが、図書館で出会った本から、電気を通すことができれば貧困は改善するのではないかと考えます。そして、疑問は図書館の本で調べながら解決してゆき、
風力発電を開発していきます。周囲からは奇異な目で見られ、彼の作った風力発電は干ばつを起こす呪術だと噂され、風力発電を壊されそうになるなど数多くの困難に見舞われますが、
彼はあきらめませんでした。
彼のスピーチでの「トライして、やり遂げました。」という言葉には頭が下がる思いです。
学校を退学した時や、南アフリカの高校への留学中にホームシックになってしまった時など、彼の人生のターニングポイントでは必ず図書館が出てきます。
巻末でジャーナリストの池上彰氏は「図書館で出会った本がきっかけで、人生が切り開かれていく。」と述べています。彼は現在、アメリカの大学でアフリカの暮らしををより良くさせるべく学んで
いるそうです。彼のこれからの活躍に期待するとともに、彼のように「学びたい、本が読みたい」という声にこたえられる図書館を創っていかねばならないと強く感じました。
『だから人は本を読む』 福原義春著 東洋経済新報社, 2009.9
著者である福原義春氏は、日本有数の企業である資生堂の名誉会長をはじめ、企業メセナ協議会会長などを務める実業家である。
1931年生まれの著者が中学生時代を送ったのは疎開先であった。
その地で有り余る時間を読書に充て、父親の持つ大量の蔵書を次々と読んでいった。本書では、このような少年時代の体験やその後の
読書経験に基づいて、本を読むことについての氏の考えや、読書によって得られることなどが綴られている。
企業人でありながら、これまでビジネス書やハウツー本はあまり読んでこなかった。なかには役立つものもあり、食べものに例える
とそれはスナック菓子やチョコレートのように美味しいものではあるが主食ではない。
氏が影響を受けてきた本として、日本のみならず世界の様々な分野の古典から現代作品まで十数冊が紹介されている。教科書に
掲載されるような有名な作品にもかかわらず、あまり通読する機会がないであろう著作も含まれている。そのような少しとっつきに
くい感じのする作品も読んでみたいと思わせてくれる一冊である。
『すぎされない過去 : 政治時評2000-2008』 井出孫六著 みすず書房, 2010.7
今年も多くの出来事が起きては消え、もう師走である。
「すぎされない過去」というこの本は、正当なものの核心が見えにくくなっている今、現代に立ちはだかる過去をも見据えて書かれた随筆で、
信濃毎日に掲載された新聞のコラムをまとめたものである。「政治時評2000-2008」と副題があるように2000年から2008年までの9年間にわたって
書き継がれた政治、社会の考察で、その時代のその時に起こった事を、私たちはどのように感じたのかといったような読み方もできそうである。
文中に記された『答えが可能ではなくとも、考えてみなければならない問いというのがあるのだ。最も大切な問いとは往々にしてそういうもので
ある』というトーマス・マンの第三子、ゴーロ・マンの回想録からの文章はこの本を読む者にかえってくる問いかけでもある。
満蒙開拓団や中国残留孤児問題、従軍慰安婦の補償問題のこと、太平洋戦争、沖縄と基地の問題など、いまだに過去が「過ぎ去ろうとしない」事
実、また、いまだにメディアに採り上げられ社会問題となっている中東からアメリカのこと、アフガニスタン紛争(戦争)や、水俣病問題、原爆の
ことなど過去、現在、そして未来をも包括して言及されている。
同じ著者により「わすれがたい光景 : 文化時評2000-2008」も9月に刊行されており、こちらもぜひ読みたいと思っている。
『おおきな木』
シェル・シルヴァスタイン著 村上春樹訳 あすなろ書房, 2010
ほんだきんいちろう(本田錦一郎)訳 篠崎書林, 1976
絵本『おおきな木』をご存じでしょうか。最近、村上春樹氏の翻訳で出版されましたので、
店頭で見かけた方も多いかと思います。
話は、一言で言えば、一本のりんごの木が、ひとりの男の子に限りなく与え、自らをささげ
続けるというお話です。リンゴの木は、実を与え、枝を与え、最後には切り株になってしまいます。
「それで木はしあわせに・・・なんてなれませんよね」と締めくくられています。ものやこころを与えると
いうことの意味を子どもだけではなく、大人にも考えさせる本です。
原題は『The Giving Tree』。くりかえし読み、読むたびに深く心に響いてくる絵本です。リズミカルな本田氏の訳は、
声に出したときにそのすばらしさに打たれます。そのひとつひとつのフレーズがいつまでも心に残ります。
ところで、この新版は、訳者である本田氏が亡くなり、出版元が継続して出版を続けることが
できなくなったことから、村上春樹氏の訳で新たに別の出版社から刊行されたものです。
&nsbp; 村上氏は訳者あとがきで、「あなたはこの木に似ているかもしれません。あなたはこの少年に
似ているかもしれません。それともひょっとして、両方に似ているかもしれません。あなたは木であり、また少年であるかもしれません。
あなたがこの物語の中に何を感じるかは、もちろんあなたの自由です。それをあえて言葉にする必要もありません。
そのために物語というものがあるのです。物語は人の心を映す自然の鏡のようなものなのです。」と記しています。
ちなみに、前出の締めくくりを、本田氏は、「きは それで うれしかった・・・だけど それはほんとかな?」と訳しています。
ぜひ、どちらも手に取り、読み比べてみてください。
『東大寺』 西山厚監修 平凡社, 2010.10
平城遷都1300年祭で賑わいを見せる奈良ですが、例年、とりわけ多くの方が
奈良を訪れるのが、「正倉院展」のあるこの時期かも知れません。
さて、そもそも、その正倉院、今は宮内庁が管理していますが、もとは東大寺の
倉庫でした。そして、先日、大きなニュースとして報じられたのが、正倉院の幻の
太刀(「陰寶劔(いんほうけん)」と「陽寶劔(ようほうけん)」)が東大寺から
発見されたということでした。東大寺にはまだまだ秘密が眠っているかもしれませ
んね。
そこで、お薦めするのが、その東大寺を特集したこの一冊です。
本書は、聖武天皇と光明皇后によって造営された華厳宗大本山・東大寺の草創期
の歴史や良弁など同寺にゆかりの高僧の話や東大寺創建時からある法華堂(俗に三
月堂とも呼ばれている)の歴史および法華堂にある天平彫刻の代表とされる美しい
尊像の由来、奈良の春を迎える儀式として知られる修二会が行われる二月堂の歴史
なども詳しく、またビジュアルに紹介しています。巻末には、東大寺の行事、略年
表、境内図などがあります。
改めて、本書で確認してから、東大寺を訪れてみてはいかがでしょうか。あなた
だけのまた新しい発見があるかも知れません。
『樺美智子聖少女伝説』 江刺昭子著 文藝春秋, 2010.5
樺美智子、昭和35(1960)年6月15日、日米安保条約改定反対運動のなかで
命を落とした大学生の名です。衝撃的な死は、その後さらに激しくなっていった学生運
動の中で語り継がれたといわれます。また一方で、彼女の両親の意向や政治的な思惑も
あって、勉強熱心で、無垢で、普通の女子大学生が死んだというイメージが強調され、
それは社会にかなり広く流布したといいます。本書がタイトルに、“聖少女伝説”と記す
ゆえんです。
その樺の死より50年。著者は、この伝説に彩られた樺の実像を、丹念な取材をもとに
再現します。
同時代にあった方にはそれぞれの思いがよみがえるでしょうし、また若い世代には、草食
動物と揶揄される若者とは違って、きわめて熱い若者が燃えていた時代があったことを知る
好著であると思います。
『書誌学入門 古典籍を見る・知る・読む』 堀川貴司著 勉誠出版 2010.03
むかし書誌学の本といえば、難しい名称がたくさん並んでとっつきにくい印象が強かった。書誌学は古典籍を扱う学問だが、
現在は洋装本が中心で和綴じの本はなじみが薄いので余計にそう思ったのであろう。
しかし、本書は今までの書誌学の本に比べて大変読みやすく、分かりやすい入門書となっている。
これは、著者が大学で書誌学関係の授業と司書課程の科目をもとにしたもので、現代の学生たちの視線を意識しながら書かれた本だからであろう。たとえ
ば、古典籍を読むときは、筆記具は消すことのできないものは使用せず、鉛筆がよいことや、机から持ち上げないこと、両手で扱うこと、めくるときは、文字のない余白
部分をつまむことなど、はじめて手にとるときの注意を懇切に説明している。また、関連する情報を集め、これまでの研究の蓄積を調べるためのデータベースを紹介して
おり、広く人文科学の研究の入門にもなる内容である。
第一部古典籍を見る(実践編)、第二部古典籍を知る(知識編)、第三部古典籍を読む(応用編)の三部構成で、「モノ」としての書物に目を向けることで、
人びとの織り成してきた「知」のネットワークを浮かびあがらせる方法を教えてくれる。
著者は、まだまだ埋もれている各地の古典籍の調査や書物の歴史の学習を通じて、自分もまた未来へとそれを受け継いでいくのだという感覚を
身につけて欲しいという。
図書情報館で和古書の出納に携わっている者として是非熟読したい本の一冊である。
『小説仕事人池波正太郎』 重金敦之著 朝日新聞出版 2009.12
「鬼平犯科張」・「剣客商売」・「仕掛人・藤枝梅安」・「真田太平記」などの代表作をはじめ、多数の時代小説・歴史小説を書いた池波正太郎。
今年没後20年目を迎えますが、今なお作品は読み継がれ、多くの読者を魅了し続けています。まさに、昭和を代表する時代小説・歴史小説作家の一人といえるでしょう。
池波は大正12年1月、江戸情緒の残る浅草に生まれ、幼少期から青年期にかけてさまざまな人生経験と、株仲買の仕事から公務員まで多彩な職業を経験しました。
その経験の蓄積は、作品に色濃く反映されているといくつかの例を示しながら紹介されています。
本書の著者は昭和39年の暮れから、池波とは作家と編集者という関係で交流が始まり、長年にわたって、池波を見てきた人でもありました。
人間池波正太郎とはどんな人物であったのだろうか。作品解説とともに、長い交流の中かからその素顔と人物に迫っています。
本書のおすすめというより、小説家池波という本道からは外れますが、巻末の第4章「人生を考える「食」の情景」は、食にたいして、
ことさらこだわり、大切にしてきた池波の姿がよく捉えられていて、興味深く読むことができます。
『食卓の情景』という作品を引いて、著者は池波を、「「いわゆる食通」ではなく、「食べる楽しみを知った食通」だった池波正太郎の姿が浮かんでくる。
いいかえれば、「おいしいものをたくさん食べる」のではなく、「食べ物をおいしく食べる」術を知っていたといっていいだろうと」と書いています。
まさに、要を得た言葉と思います。
著者には他に『池波正太郎劇場』(新潮社新書)という作品もあります。この本も当館で所蔵していますので、あわせてご利用ください。
『マグロをそだてる : 世界ではじめてクロマグロの完全養殖に成功! 』 江川多喜雄文 ; 高橋和枝絵 ; 熊井英水監修 アリス館 2009
卒業証書を持っているマグロをご存知ですか?近畿大学で生まれて育ったマグロ(近大マグロ)には、卒業証書がつけられるそうです。
近大マグロは、値段が一番高いといわれるクロマグロ(別名、本マグロ)。
世界的に、刺身が食べられるようになり、漁獲高が減ったことを危惧して、近大マグロの完全養殖の研究が始められました。
その研究を、子どもにもわかりやすく書いた本がこの1冊です。
完全養殖とは、まず捕まえて育てた魚が産んだ卵をふ化させ、育てます。その魚がおとなになって産んだ卵を、人工ふ化させて育てて、初めて「完全養殖」となります。
捕まえて育てるだけでは「蓄養」なのだそうです。
2002年に、世界で始めて成功したこの完全養殖は、近畿大学水産研究所が1970年から実に32年の歳月をかけた研究の成果です。
この研究は、養殖技術の研究とともに、それまで謎だった、「ふ化後、マグロがどのように育っていくか」の研究でもありました。
子ども同士のはげしい共食いがあるので、生けすを、マグロの大きさごとに分けて育てることにしたりと、さまざまな発見と工夫がこの1冊で分かります。
『新 13歳のハローワーク』 村上龍著 はまのゆか絵 幻冬舎 2010
夏休み・お盆と、親戚の方に会う機会も多くなりますね。子どもの頃、そんな親戚の集まりで苦手だったことがあります。
それは大人たちの「○○ちゃん、大きくなっ たら何になるの?」という質問。聞かれるたび、返答には困ったものでした。
というのも、興味をもてる職業を見つけられずにいたのです。
『新 13歳のハローワーク』では、「国語」「美術」「保健・体育」など、授業の科目ごとに職業が分類されて、
その科目を「好き・興味がある」なら・・・というかたちで紹介されています。「休み時間が好き」「何も興味がない」ひとに
向けたページがあるのも、ほっとしますね。過去の自分に見せたいくらいです。
世の中にはこの本に掲載しきれないほどの職業があり、若いみなさんが新たに創り出す職業もあることでしょう。
これから仕事に就かれる方には「未来」に、すでに働かれている方には「異業種の世界」に、思いをはせる1冊としてください。
あわせてこちらもどうぞ。
- 『13歳のハローワーク』 村上龍著 はまのゆか絵 幻冬舎 2003
- 『13歳の進路』 村上龍著 はまのゆか絵 幻冬舎 2010
『ん : 日本語最後の謎に挑む』 山口謡司著 新潮社 2010
まず、『ん』という書名に惹かれました。日本語の50音順は「あ」から始まり、
50音に含まれない「ん」で終わりますが、この最後の「ん」に焦点をあてた本です。
本書によると、奈良時代の文献『古事記』『日本書紀』『万葉集』などに「ん」を
書き表す文字はひとつも使われていなかったそうです。当時は、まだ平仮名や片仮名
はなく、漢字を利用した万葉仮名で文字は表記されていましたが、ほかの50音と異
なり、「ん」を書き表すためのもととなる漢字がなかったことを理由にあげています。
では、いつ頃から表記されるようになったのでしょうか?それは、この本を読むこと
で分かります。
本書の内容は、上記の「ん」の起源のほか、「ん」と仏教との関わりや、明治以降
の「ん」の研究など、「ん」に関する薀蓄がもりだくさんで、「んー、なるほど」と
唸ってしまう一冊です。
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」 岩崎夏海 ダイヤモンド社 2009
「知の巨人」、「経営学の父」などと称されるP.F.ドラッカー。彼の代表作である『マネジメント』は、組織経営の本格的入門書として
世界中で幅広く読まれています。
P.F.ドラッカーの著書を手に取って、私には難しいと感じられる読者も多いでしょうが、そんな方へ最初にお奨めするのが、今回ご紹介する一冊です。
「野球部を甲子園に連れて行きたい」と新人マネージャーは意気込みますが、強豪校がひしめく激戦区で出場は無理と部内はあきらめムードでした。
めげない新人マネージャーは『マネジメント』を読み、これを実践していきます。親友と協力し、野球部のマーケティングに取り組み、課題を抽出し、
カイゼンを施します。送りバントに代表される既存の高校野球戦法にイノベーションを仕掛け、チーム力を大幅に向上させるなど、
『マネジメント』の引用を随所に散りばめながら、組織経営が分かりやすく展開されています。
本書のクライマックスには、「無名の弱小野球部が決勝まで来たことを、周りは奇跡だと言っているが、奇跡なんかじゃない。
私たちはやるべきことをやって、ここまで来たんだ」というセリフがあり、感涙させられます。甲子園出場という明確な目標を掲げ、野球部の仲間たちと真摯に
マネジメントに取り組み、甲子園出場の成果を達成する青春ストーリーをお楽しみ下さい。読み終われば、P.F.ドラッカーの著書を身近に感じます。
『切り紙 昆虫館:ハサミで作ろう!』 今森光彦作 童心社 2009
今森光彦氏は、自然と人との関わりをテーマに写真を撮り、その技術と仕事を評価され多くの賞に輝いている写真家です。
『昆虫記』や『里山物語』をはじめ、多種の昆虫の本など、一度は目にされたことがあると思います。
そんな、今森氏が、作った切り紙の昆虫たちを紹介したのがこの本です。
山でカブトムシやクワガタムシを捕ったり、野原でトンボを捕まえたりと、昆虫採集は夏休みの宿題の1つでもありましたが、楽しい探検でもありました。
捕った昆虫を飼育したり、標本を作ったりして宝物にしていた男の子も多かったのではないでしょうか。
この本には、切り紙で作った昆虫がたくさん載っています。カマキリやカブトムシ、オニヤンマなど、作られた作品は今にも動き出しそうです。
コノハムシなんか、本物と間違えそうです。昆虫写真家の研ぎ澄まされた観察力に脱帽です。
この本の巻末には型紙が付いているので、皆さんも童心に返って一度作ってみてください。動き出しそうな昆虫にワクワク感が味わえます。
7月から3階ブリッジでは、この他に紙工作の本など種々展示していますので、どうぞご覧ください。
『笑う科学イグ・ノーベル賞』 志村幸雄著
本書は、「裏ノーベル賞」とも呼ばれ、人々を楽しませつつも考えさせるような独創的な科学成果に対して送られるという「イグ・ノーベル賞」について紹介されている。 また、日本人が授賞した代表的な研究を「人」と「業績」の両面から詳述し、イグ・ノーベル賞獲得のための方法論が述べられている。 1991年創設の「イグ・ノーベル賞」は20年以上もの歴史ある米国発の賞ですが、「イヌとの対話を実現した犬語翻訳機「バウリンガル」」(2002年平和賞)「兼六園の銅像がハトに嫌われる理由の化学的考察」(2003年化学賞)「人々が互いに寛容になることを教えたカラオケ発明」(2004年平和賞)など日本人が19年間で14件を受賞している。 本書では、ノーベル賞のパロディーとして話題を集めるイグ・ノーベル賞の「科学性」を詳細に考察し、人を楽しませる「オモシロ科学」の大切さが説かれている。 ぜひ一読を!
『おりがみで作る季節のカブリモノ』 チャッピー岡本著
チャッピー岡本さんの素敵なカブリモノがいっぱいの1冊です。
カブリモノって楽しいけど造るのは難しそう…。でも折り紙でなら私にも造れるかも。
チャレンジしてみよう!!
そんな気持ちにさせてくれる、丁寧な解説付きの作り方が載っています。
造って、かぶってみんなが笑顔になれること間違いなしの1冊です。
ぜひ一度、皆さんもカブリモノ製作にチャレンジしてみてください。
『永遠まで』 高橋睦郎著 思潮社 2009.7
『死者という在りし日の生者のために、そして生者という名の来る日の死者のため に』という二行にひかれて読み出した詩集であるが、世界的なモデル、山口さよ子へ 書かれたと思われる『小夜曲 サヨコのために』を、私は夢中で読んだ。あの無表情の 有名なモデルが、『たんねんに粧って、軽やかに着て』何を想い、ステージを歩いたの か。詩人のことばが、死者という在りし日の生者に語りかける。ことばのもつ力が死 者という見えない相手に届いていく。 詩人は自身のことを、『死を喰う不吉な者』と して、祝福されなかったその出生詩を冒頭に書く。 母、祖母、関わりのあった人たち、 そして中国の旅を詠み、中国では4月にまた地震があったが、四川地震の理不尽な「死」 を受けた犠牲者のために思いつづける。『着ては脱ぎ 脱いでは着ながら気付いた 着て は脱ぐ私も一種の服で 本当は着られているのだと 私にも本当は 顔も体もないのだと』 モデルが服を着るように、詩人はことばを着ては脱ぐのであろうか。 「ことばの力」 ということがよく言われるが、この詩集を読みながら服を脱いだ裸の詩人の震えが、顔 も体もない詩人のことばが、どんな力を届けるのだろうと思う。冒頭の出生詩は読む者 にある種の怖さを感じさせるが、詩集を最後まで読み終えると「生」は確実に「死」の 続きで、そして「死」は決して終わりではなく「生」を越えて永遠であり再生していく という事に気付かされる。みずみずしい新緑の季節がまぶしい。
『気持ちにそぐう言葉たち』 金田一秀穂著 清流出版 2009
気のおけない仲間と交わすくだけた言葉や、少し堅い書き言葉など私たちが日々何気なく使っている「ことば」。何十万とある日本語のなかには擬態語、擬音語と呼ばれるものがあります。
これは人の微妙な感覚や心情を表わすことのできる重宝な言葉なのです。
本書はそんな「でき合いの言葉では言えない、隙間を埋めるための言葉」である擬態語を集めたものです。例えば、「うかうか」と「うっかり」、「ぴったり」と「しっくり」。
一見似たような字面ですが、それぞれが含む意味の範囲やニュアンスはちょっと違うようです。
そのような言葉について、テレビでもおなじみの金田一先生がわかりやすくユーモアを交えて解説しています。
気持ちと言葉の絶妙なはまり具合になるほど!と唸ってしまう、そんな言葉を発見できる一冊です。
『道は必ずどこかに続く(15歳の寺子屋)』 日野原重明著 講談社 2009
「大きくなったらなにになりたい?」なんて聞かれて気軽に答えることができた頃とは違って、微妙な年頃 15歳。やりたいことがみつからない、な
んとなく不安…そんなときには、「自分がこうなりたい!と思えるモデルを見つけてください。」とおっしゃるのは、97歳の現役医師 日野原先生。
ご自身の経験をもとにした、やさしく力強い言葉が心に響きます。
どんなことがあっても、道は必ずどこかに続くのです。
『藩政アーカイブズの研究: 近世における文書管理と保存』 国文学研究資料館編 岩田書院 2008
平成21年3月に当館所蔵の明治・大正期の奈良県行政文書6,695冊が奈良県指定文化財に指定され、平成21年6月に「公文書等の管理に関する法律」が成立するなど、
公文書の管理が注目されています。今回ご紹介する本は、江戸時代の藩と村の文書管理の歴史を論じたものです。
日本各地には江戸時代の文書が多く残っていますが、これは偶然に残ったものではなく、江戸時代から意識的に管理され、虫干しなど保存処置を施し、
代々引き継がれた結果です。江戸幕府と藩は村を武力のみで治めておらず、村からの訴えを受け入れる柔軟性の支配であったために250年以上続いたと言われています。
そのため公平な政治を行う必要があり、前例を参照するために文書の共有化を図ることを不可欠としていました。
各藩は文書を管理する役所を設け、城内の櫓などに文書を保管し、文書目録を作成していました。文書量が多くなると、帳面に文書を挟みこむなど文書管理の効率化が
工夫されました。村でも藩に訴えるための訴状を作成し、証拠となる文書を管理する能力が求められました。
本書は、藩の文書管理に関する最新の研究成果と村の文書管理の研究史を紹介した一冊ですので、是非ご覧下さい。
『日本沈没 第二部』 小松左京,谷甲州著 小学館 2006.8
日本列島が物理的に水没し、救助に奔走するなかで傷ついた小野寺を乗せたシベリア鉄道の中で、行きあった女性が生まれ故郷の
悲しい民話を語る。今から約40年前、大ベストセラーとなった小松左京『日本沈没』は、そんな印象的なシーンで幕を閉じています。
その直後には「第一部 完」とあります。
近年、ようやく発行された『日本沈没』第二部は、沈没から25年を経た世界を舞台にしています。
沈没から逃げ延びた日本人は、各地で大小さまざまなコミュニティを作って暮らしいています。他国に間借りして存続している
日本政府の首相は中田。第一部では日本沈没の予見と脱出計画に大きな役割を果たした科学者です。故国を知らない世代が増え、
日本人としてのアイデンティティを失われていくのを恐れる中田は、大国の思惑に翻弄されるなか、各地に散った日本人を集住させ、
列島があった海域にシンボルとなるメガフロートを浮かべる計画を進めようとします。しかし、その過程で日本政府が所有する
スーパーコンピュータ地球シュミュレータは、全世界に先駆けて地球規模の驚くべき寒冷化を予見します。
第一部と同様、本書も群像劇の構成を取っており明確な主人公は存在しません。小野寺(小野田)や中田といった第一部の読者
にとってはなじみのある人物のその後が描かれると同時に、渡桜やワタリ准尉の姉弟といった沈没の記憶もない世代も活躍しています。
本書あとがきによれば、10代半ばに昭和20年の終戦を迎えた著者は、その20年後に高度経済成長に浮かれる日本に違和感を持ち、
もう一度日本人に危機を直面させる中で、日本人とは何かを考るべく本書を構想したといいます。第一部とあわせてご覧ください。。
『大名行列を解剖する : 江戸の人材派遣』 根岸茂夫著 吉川弘文館 2009.11
江戸幕府は軍事政権であったが、武力を発動させることなく250年に及ぶ平和な時代を作りだした。武士たちは機会をとらえては権威を見せつけることにより
支配者であることを示した。その具体的なかたちが軍事パレードの大名行列であった。
55万5000石の紀州徳川家の江戸城登城を例にとると、総勢280人だが、藩主に拝謁できるのは、35人に過ぎず、全体の18%程度である。
また32%は陪臣であり、全体の65%が小者・中間といった奉公人で武家より下の身分である。多ければ約四分の三にあたる200人以上、
少なくとも60%近い160人は人宿などから派遣された渡り奉公人か日用取だったのである。
このように、大名行列の内情は、メンバーの大半が「渡り者」と呼ばれる派遣社員・アルバイトで、武士ではない人々によって支えられていた。
彼らの「がさつ」な行動は幕府を怒らせたり、困らせたりしたが、彼らは仲間同士で組織を作り上げ、現場の「元締」が出現して、主人の家来に祝儀金・割増金などをねだったり、
部屋の中で頼母子講をつくって掛け金を強引に徴収したりするなどさまざまな手段で稼ぎまくっていた。
著者が大名行列に注目するのは近世武家社会の構造そのものが行列であり、多様な特徴が集約されており、その変質の中に近世社会のさまざまな動向が
特徴的に見られるからであるという。
読んでいて面白いだけでなく、大名行列から江戸時代の武士とは、権威とは、あるいは社会の発展とは何かという難しい問いへの筋の通った
卓見が展開されている。
『名文で巡る阿修羅−天平の国宝仏−』 梅原猛ほか著 青草書房 2009.5
書名は「阿修羅」となっているが、サブタイトルに天平の国宝仏とあるように、昨年話題になった阿修羅像のみではなく、
興福寺の他の諸尊像や東大寺、新薬師寺、唐招提寺、法隆寺、聖林寺の各国宝仏も取り上げられている。
諸尊像について語るのは、梅原猛から始まり、亀井勝一郎、岡部伊都子、白洲正子、井上靖、高村光太郎などといった著名な哲学者、
文芸評論家、随筆家、小説家、詩人。大和の仏像によせる各人の思いを、それぞれ味わい深い文章で綴っているのが本書の特徴である。
仏像の方も何がしか、著者の深い感性に裏打ちされた観察眼と心に響く名文によって、体内に秘めた魅力が引き出され、一層の輝きを増しているといえる。
なお、本書は『名文で巡る国宝の仏像』シリーズの1冊として出されたもので、シリーズの姉妹編には十一面観音、弥勒菩薩、阿弥陀如来、
観世音菩薩、千手観音があり、各冊ともお勧めである。
多忙な日々の中、時には悠久の時の流れに身を置く諸尊像に向きあい生み出された名文を思い起こしながら、
ひと時の心の安らぎを求められてはいかがだろうか。
『宇宙で暮らす道具学』 松村秀一, 松本信二監修 ; 宇宙建築研究会編著 雲母書房 2009
野口聡一宇宙飛行士が、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在中です(2009年12月から2010年5月までの約5ヶ月間)。
宇宙での生活って、いったいどんな感じなのでしょうか。無重力の体への影響は?食事は?お風呂は?
疑問を解決でき、さらに興味津々になってしまう、いい本がありました。
この本によると、無重力の影響で、なんと身長が伸びるそうです。でも残念ながら伸びるのは足ではなく胴。
重力で圧迫されている脊椎が伸びるから。食事中のフォークやナイフはテーブルに置いてもふわふわと浮いてしまうので、マジックテープで固定しながら。
食事を温める電気オーブンはあります。お風呂は無し。椅子は疲れたから座るものではなく、作業をするのに体を固定するためにあるとか。
近々実現するであろう宇宙旅行の話や、巻末の「宇宙入口マップ」「博物館・施設マップ」も宇宙への夢が膨らみます。
『地震イツモノート: 阪神・淡路大震災の被災者167人にきいたキモチの防災マニュアル 』 地震イツモプロジェクト編著 木楽舎 2007
1995年1月17日未明に発生した阪神・淡路大震災。15年前に起こったこの震災が残した傷跡は、例え目に見えなくても、
人々の生活や人生から消えることはありません。
この本は、被災された方のアンケートをもとに編集された防災マニュアルです。報道では知ることのできなかった、
当事者の率直な気持ちや実際に役立ったことなどが、シンプルな文章とちょっぴりユーモラスなイラストで書かれています。
そしてタイトルにもあるように、防災活動を「イツモ」の生活に取り入れられるような提案もされています。
地域や学校の活動に防災を盛り込んだり、子どもたちが楽しめるイベントにアレンジしたりと、日常で防災を活用する工夫が紹介されています。
ご家族、ご近所さん、人が集まる場に話題のひとつとしていかがでしょうか。
なお、当館では防災月間である9月に関連図書の展示をしました。展示リストがありますのでぜひご活用ください。
『47都道府県・伝統食百科』 成瀬宇平著 丸善 2009
お正月といえば、お雑煮、お雑煮と言えば、お雑煮の餅にきな粉をつけて食べるのが奈良県民、とテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」で紹介されてい
ましたが、お正月というのは伝統的な料理を意識し、そしていただく機会でもあります。
今回ご紹介するのは、お節料理をはじめ、我が国の年中行事や通過儀礼に欠かせない伝統食について書かれた『47都道府県・伝統食百科』です。
本書は 地域の特性や歴史的背景にも触れながらコンパクトにまとめ解説しています。
特に、第2部では、都道府県ごとに「知っておきたい伝統食」「祭事(ハレの日)の伝統食」「特産物」などが事例をもって紹介されており、今日まで伝承され
てきた日本各地の食文化を知ることで、今一度、自分のふるさとや住んでいる地域の伝統食に目を向けてみるのは如何でしょうか。
私も、事始めに、なぜお雑煮の餅にきな粉をつけるのか、文献にあたってみたいと思っています。
『はじめまして奈良』 井岡美保, 小我野明子著 ピエ・ブックス 2009
奈良在住のふたりが「初めて奈良を訪れる人」向けに奈良紹介の初級編として興味深い一冊です。 手軽に廻れる奈良駅周辺の「とっておきのお店」、「奈良のおみやげ」、「クラッシックな場所」「寺社・仏閣」を写真を織り交ぜて紹介しています。 「奈良を支える人たち」では、当館の 2周年記念のファッションショーで、お世話になったNATIVE WORKS.の岸本さん、安田さんも紹介されています。
『わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて−児童労働者とよばれる2億1800万人の子どもたち−』 岩附由香、白木朋子、水寄僚子著 合同出版 2007
ポップな黄色い表紙に衝撃的なタイトル、思わず手にしたこの本は、ACE(エース)(Actionagainst Child Exploitation)といって「子どもが笑顔でいられる社会」
の実現をめざして活動しているNGOが出版した本でした。
日本に生まれ育ち、何不自由なく生活させてもらっていた子どもの頃には、海の向こうでこんな現実があることなど知る由もありませんでした。
病気の両親のために働かねばならず5歳からサッカーボールを縫っていたという少女や、貧しさのために10歳から家事使用人となった少年など、子どもが働かずにはおれない国や地域
があります。大人になり子どもを持つ身になった今、この本を読み進めて行くほど、心が痛みました。きっと、この子達はこの現実が常だと思っているでしょう。
大人になって違う世界を知った時どう思うでしょうか。一人の力は確かに小さい、けれど一つが二つ、二つが三つになれば、何かできるかも知れません。
多くの人にこの現実を知ってもらい、次代を担う子どもたちの未来のために、もっと世界に目を向けることを、気づかせてくれる1冊です。
『情熱仕事力』 リコ・ドゥブランク著 オータパブリケイションズ 2009
本書は、仕事に対する発想法がテーマになっている。ザ・リッツ・カールトン東京の総支配人の著者がこれまでの体験から得たポジティブ発想法
が分かりやすく紹介されている。
いまの仕事に行き詰まったとき、このまま進路を変えずに進んでいいのか迷ったとき、部下をどう指導していいか分からなくなったとき、などなど、
不安を感じたとき、著者の述べているような「100%の情熱を持って仕事を楽しむ。」姿勢で仕事に取り組めれば、今の仕事や人生はもっと楽しいものになる。
読み終えたとき笑顔になる一冊です。
『ビジネスマンのための「読書力」養成講座 : 小宮流頭をよくする読書法』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2008.9
本書は、「小宮流目的別5つの読書法」、「読書力」を高める8つのポイントと最後に読書法別ビジネスマンのための必読書60で構成されています。
第1〜5章で、読書法について紹介し、各章のなかで、お薦め本を取り上げ、紹介しています。
- 第1章 速読 求める情報を探すために、要点を素早く把握するための読み方
- 第2章 通読レベル1 最初から最後まで読んでいく読み方
- 第3章 通読レベル2 通読レベル1に加えて、論展をきちんと押さえて読む読み方
- 第4章 熟読 注や参考文献を参照しながら、きちんと理解するために読む読み方
- 第5章 重読 「意味」を得るだけの読書ではなく、「意識」を高めるための読み方
また、第6章では、「読書力」を高める8つのポイント紹介し、読書のスキルを伸ばすためには、時間と場所の確保、道具が必要であり、 受け入れる自分の頭の環境、つまり、体調が重要だとされています。 そして、第7章の読書法別ビジネスマンのための必読書60では、経済、マーケティングなどの本が紹介されており、役立ちます。
『広報の仕掛人たち : 21のPRサクセスストーリー』 日本パブリックリレーションズ協会編(宣伝会議 2006.12)
「PRとは(略)、報道機関などを通して社会と良好な関係を築き、維持・発展させていくことに主眼を置いたコミュニケーション活動」である
と本書は言います。新規サービスや、新製品の事業自体にスポットライトが当たり、黒子役の広報のノウハウやスキルはベールに包まれています。
本書は、このベールをはずし、さまざまな課題に直面した企業や団体が、コミュニケーションの壁を乗り越えたストーリーを紹介し、
私たちに目からうろこのヒントや、地道になすべきことのアドバイスを与えてくれます。
みんなが良く知っている伊藤園の「お〜いお茶」の俳句は、「お茶はタダで飲むもの」という認識だった時代に缶のお茶を市場に出すためのPRで、
今やコカ・コ−ラを抜く売れ行き。「クールビズ」「ウォームビズ」「チーム・マイナス6%」の愛称は、環境省が行った地球温暖化防止のPRで、国民運動にまで発展。
「だけじゃない、テイジン」で、伝わりにくい、部品・素材メーカーの企業イメージを刷新した帝人のPRは、ブランド力を財産とすることに成功。
本書の編者である日本パブリックリレーションズ協会は、毎年、PR・広報スキルの優秀な事例(作品)に対して表彰を行っています。
本書は、単に事例を紹介するだけでなく、21事例を6つの章「ヒット商品秘話」「ブランドの創造」「CDRとコミュニケーション」
「企業の評判とPR」「啓発・啓蒙のPRポイント」「地域活性化」に分け、各章ではPRの価値や戦略の解説をしており、読み応えがあります。
『自治体マーケティング戦略』 淡路富男著(学陽書房 2009.3)
本書は、全体を概要編と実践編として構成し、「理念と体系」を解りやすく解説しています。
- 第1部 概要編 マーケティングの必要性や基本的な考え方を解説
- 第2部 実践編
- 分析仮説 → 全体戦略構築
- 戦略展開(行政サービス、知覚コスト、流通チャネル、コミュニケーション方法)
自治体マーケティング戦略の策定方法が順序をおって示されており、分析から順に進めていくことで、自治体マーケティング戦略に基づいた政策・施策・事務事業が
作成できるようになっています。
「分析と仮説構築→使命確認→目標・方針設定→全体戦略の構築→個別戦略の構築」といったプロセスで作成できるようにまとまっています。
また、事例も多く、自治体マーケティング戦略での「東京多摩地域の各自治体の競争戦略」、行政サービス戦略での「生活習慣病とスポーツ大会の施策事業事例」は、実際の作成時に参考になります。
また、研修カリキュラムなどもあり、より実践的なものとなっています。
手元に置いて、事業計画を作成する際に参考となる1冊です。ご一読下さい。