たとえば、真っ暗闇のなか。ふと「なにか」の気配を感じたとき、人は「話に聞いたあの妖怪か」「この地で彷徨うあの不幸な幽霊が」などと、にわかに信じがたい出来事をなんとか「理解」したがるようです。フィンランドのトーベ・ヤンソンが書いた「ムーミン」の主人公は、トロールという想像上の生き物。新約聖書で大天使ミカエルと戦ったドラゴン、アンデルセン童話の悲しいマーメイド、中国神話の麒麟(きりん)や鳳凰(ほうおう)など、この世に存在するはずのない生き物のお話は、世界中に数え切れないほどあります。
もちろん日本でも、そういった不思議な生き物や怪異について、古来よりたくさん語り継がれてきました。科学や技術が発展して、夜の闇に怯えることがなくなった現代でも、怪異の話は次々に生まれています。例えば、最近の子どもたちの話題になったという「LINEわらし」。スマホのLINEグループで楽しく会話していると、ふと気がつけば知らない子がひとり混じっている……という、まるで「座敷童子」のようなお話し。どうやら人間はいつの時代になっても、妖怪や幽霊と離れることができないようです。
このたびは、絵本や紙芝居で活躍するなかたにゆかさんが想像を巡らせて、奈良に伝わる妖怪エピソードのいくつかをビジュアル化しました。動物が変身したもの、おそろしい悪霊など、かつて奈良の人々が出会った妖怪たちの姿を、ぜひお楽しみください。そしてふと気づけば、今あなたの隣にも怪しい影がそっと寄り添っているかもしれません……。(小我野明子・編集者)